就活の季節(2024年3月2日『高知新聞』-「小社会」)

 高知市の堺町界隈(かいわい)で、春を告げるハクモクレンが見頃を迎えている。きのう朝は雨上がりの澄んだ空に多数の白が映え、〈木蓮(もくれん)の花ばかりなる空を瞻(み)る〉漱石。弥生3月が始まった。

 弥生の語源は草木が芽吹く「いやおい」とされるが、人もこの月替わりで動き出す。1日は来春に向けた就職活動の解禁日であり、市内で大規模なガイダンスがあった。花鳥風月の趣はないが、季節の光景に違いない。

 人手不足を背景に就活は今季も売り手市場が続く。活動が早期化し、大手ではもう内定も結構出ているとか。ただ高知はこれからが本番。会場をのぞくと、各社の話を真剣に聞くリクルート服姿の若者が初々しかった。

 売り手市場と言われても学生はピンとこないだろう。なにせ就活は初体験だ。働くことに初めて正面から向き合うことに変わりなく、自分探しの日々が続く。

 就活で小欄の世代に印象深いのは、1991年公開の映画「就職戦線異状なし」か。バブル期の若者が就活を通じて成長する群像劇だ。もがく主人公を励ますように、槙原敬之さんの主題歌「どんなときも。」が〈♪僕が僕らしくあるために〉と歌い上げる。今も応援歌だという人も多いのでは。

 高知県は若者の定着が切実な課題になっている。きのうの学生たちに強いることはできないけれど、期待は大きい。彼、彼女たちが「自分らしくいられる」職場が高知で見つかりますように。