新卒採用のミスマッチ減らせ(2024年2月29日『日本経済新聞』-「社説」)

売り手市場のなか、学生の就職活動も早まっている(3日、東京都江東区で開かれた就活イベント)=共同


 2025年春に卒業する大学生の就職活動が3月から本格的に始まる。企業の採用増で学生が有利な売り手市場の傾向が強まり、採用する側には焦りが垣間見える。ミスマッチが増えないか心配だ。

 新卒採用は3月から会社説明会、6月から選考が解禁となる。ただ民間各社の調査によると、2月1日時点ですでに内定を持つ学生が2〜3割にのぼる。20年には1割程度だったのが年々上昇、外資系企業に対抗するため大手の採用前倒しが増えているという。

 就職情報会社のディスコが今年1〜2月に実施した調査では、「学生の質よりも採用予定人数の確保を優先する」と答えた企業が32.6%あり、過去最高となった。選考が粗くなれば、その会社と合わない人材を採用する可能性は高まる。早期の退職は双方にとって損失であり、企業はミスマッチを減らす工夫を重ねるべきだ。

 相互理解を深めるうえでインターンシップ(就業体験)は有効な手段となる。日程が5日間以上など一定の条件を満たせば、今年から学生の情報を採用選考に利用できるようになった。

 日立製作所は2週間以上のジョブ型インターンを実施している。設計開発や営業、経理などで約670のコースを設け、23年度は前年度比1.5倍の930人を受け入れた。入社が決まれば原則インターンと同じ職種に配属される。

 学生の納得度や定着率を高めるために、各社は長期インターンを積極的に導入してほしい。学業と両立できるよう時期や負担の度合いに十分配慮することも必要だ。

 そもそも短期間に集中する一括採用では、学生の能力を見極めるのは難しい。秋と冬にも選考する通年採用や、スキルを重視した職種別採用を増やすべきだ。

 幅広い業種で初任給の引き上げが広がっている。待遇改善は望ましいが、学生が重視するのは自分が成長できる企業であるかどうかだ。人材教育や人事制度など、若い社員の挑戦心にこたえる仕組みづくりでも競い合ってほしい。