封印が解かれた東京大空襲の証言ビデオ、東京都が初公開 生死の境をさまよった生々しい経験が語られた(2024年2月29日『東京新聞』)

東京大空襲などの戦争体験者の証言を東京都が収録後、大部分が非公開とされていたビデオの公開が28日、都内で始まった。30年近い時を経て封印が解かれ、戦争体験談が次世代に継承される一歩となった。
東京空襲資料展で公開された証言ビデオ

東京空襲資料展で公開された証言ビデオ

◆空襲、捕虜や疎開体験など1人10分程度

 ビデオは、1990年代に都が建設を計画した「仮称・都平和祈念館」での展示を目的に収録した。戦争体験者330人から体験談を聞き取ったが、祈念館の展示内容や歴史認識を巡り都議会が紛糾。建設計画が凍結され、映像は一部を除き非公開になっていた。
 池袋の東京芸術劇場では、都主催の「東京空襲資料展」内で、公開に同意した122人のうち34人分の証言公開が始まった。会場の大型テレビには、東京大空襲や山の手空襲、捕虜や疎開体験など1人10分程度の証言映像が次々と流れた。

◆「映像で見て心に染みた」

 来場者らは生々しい証言にじっと耳を傾け、神奈川県伊勢原市の杉本忠勝さん(81)は「悲惨な戦争体験を実際に映像で見て心に染みた。二度とあってはならない」と話した。
東京空襲資料展で公開された証言ビデオ

東京空襲資料展で公開された証言ビデオ

 池袋会場は3月13日まで(11、12日は休館)。3月3~12日は三鷹市公会堂(4、11日は休館)、7~14日は調布市文化会館での資料展で、各34人分ずつ公開する。このほか20人分は、10日に都庁で開かれる都平和の日記念式典の会場で上映する。
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◆苦渋の表情、絞り出すように

 映像では、どの証言者も苦渋の表情で語っていた。東京都墨田区の浜田政夫さん=当時(16)=は、東京大空襲の焼夷(しょうい)弾で火の手に追われ川に飛び込み助かったが、母や弟、妹は行方不明のまま。「遺体を見られなかったということはつらいことです」と絞り出すように話した。江東区で被害に遭った越部恵美子さん=当時(6)=は学校の講堂に逃れた翌朝、外には大勢の人が倒れており、「校庭のプールにも人が大勢浮いていた」と惨状を振り返った。
 池袋会場で映像が公開された証言者、松本吉雄さん=94歳で死去=の長男で大学職員、高明さん(62)=目黒区=は「父は今月13日に亡くなるまで、映像が一般公開されていると信じていた」といい、「公開されることを伝えられず本当に残念」と悔やむ。吉雄さんは空襲で姉を亡くし、生前、戦争を知らない世代に悲惨な戦争体験を伝えることこそ「わが責務」と語っていた。高明さんは「生死の境をさまよった方々の体験が、世代を超えて継承されてほしい」と願う。
 都は証言公開にあたりデジタル化を図り、字幕を付けた。今後は活用方法を模索し、公開の同意を得られていない残りの証言者の意向確認も続ける方針。(長竹祐子)