原子力発電の健全な安全審査に逆行する対応だ。
規制委の活動原則には「科学的・技術的な見地」を重んじる言葉が含まれる。用いた論理はこれに抵触しないのか。
活断層論に無理がある
審査の継続を却下された日本原電は、新たな追加調査を実施して安全審査への再申請を目指す。道は多難でも、ぜひ実現してもらいたい。
安定した大電力を連続的かつ長期に供給できる原発は、不安定化が進む国際情勢下で資源に恵まれない島国日本に欠かせない存在だ。
復活の遅滞に敦賀2号機の不合格が加わった。原発再稼働の先行きの不透明感は確実に増した。未稼働の原発を保有する電力会社にとっては経営上の暗雲だ。政府の次期「エネルギー基本計画」に原発の増設などが書かれても対応は不能であろう。後出し規制などで完工が遅れる可能性も否定できない現状では原発建設は進まない。
政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針」では「最大限活用する」電源として原子力を掲げている。規制委は独立性の高い委員会だが、国の行政組織のひとつである。敦賀2号機の審査の在り方と結論は、国のエネルギー政策との整合性を欠くものだ。
また、日本原電と敦賀2号機に対する規制委と規制庁のこれまでの対応に、印象操作が疑われることも見過ごせない。
安全審査中の令和2年2月の「データ書き換え問題」がその代表例である。敦賀原発敷地内の「ボーリング柱状図」の記述を日本原電が無断で書き換えたとして規制委が叱責したのだが、これは全くの濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)だ。
規制庁の職員が元年10月の審査会合で「ここが変わったとか誤りがあったとかではなく、きちんとした形で更新して最新の形で審査資料として提出するよう」指示している。
▼源氏物語の光源氏が謹慎生活を送り寂しさの極致とされた須磨の秋より、この浜の夕暮れの方が寂しく心ひかれるとの意という。浜には漁師の粗末な家があるくらい。わびしい寺で茶や温かい酒を飲み情緒に浸ったという
▼現代の敦賀の海辺の風景は変わるのか。色ケ浜近くの日本原子力発電敦賀原発2号機について、国の原子力規制委員会は直下に活断層がある恐れが否定できないとして再稼働を認めない手続きに入った。廃炉の可能性が高まったらしい
▼敦賀以西は原発銀座と呼ばれるほど林立し寂しい漁村に富をもたらしたが、今後も頼れるのか。地震の影響を見極めるため審査が長引いている原発は他にもある。政府は原発を活用する気でいるが、地震国日本で「安全な原発」を十分に確保できるのだろうか
2012年の規制委発足後、原発27基が審査を申請したが、初の不適合判断となる。最終的な結論は委員全5人が出席する定例会合で検討するが、再稼働は困難で、審査不合格となる可能性が高い。
安全性に不確かな部分がある以上、運転を認めることはできない。妥当な判断と言える。
11年の東京電力福島第1原発事故を受けて導入された新規制基準は、活断層の上に原子炉や冷却装置など重要施設を設置することを禁じている。断層が動いた場合に地盤がどのくらいずれるかや、押し上げる力を予測することは困難で、損傷する恐れが拭えないからだ。
審査では、原子炉の北約300メートルにある「K断層」が活断層かどうか、原子炉直下を通る「D―1断層」などがK断層と一体かどうかの2点が焦点となった。
原電はK断層の活動性はなく、D―1断層との連続性もないと説明した。だが、規制委は「明確な証拠により否定できていない」などとして退けた。
敷地内には既に活断層と分かっている「浦底断層」が通る。1990年代には存在が確実視されていたが、原電は一貫して否定した。認めたのは2008年になってからだ。
その後、焦点の断層と浦底断層との連動性が問題化したが、15年に再稼働の審査を申請。以降も信頼性を疑うような行為を繰り返してきた。
断層活動の痕跡を示す記載など審査資料に千カ所以上の誤りが見つかったほか、原電がデータを無断で書き換えたことが判明した。規制委は審査を一時中断し、原電本社に立ち入り検査することもあった。それでも資料の誤記などは後を絶たず、昨年4月に審査を再び中断した。
原発推進派は今回の判断を「拙速だ」と批判するが、再稼働の申請から9年が経過する。安全性を確実に証明できないのなら、いたずらに審査を長引かせてはならない。
脱炭素化を掲げる岸田政権は、従来の「可能な限り依存度を低減」から「最大限活用」へと原発政策を大きく転換した。一方、今年1月には敦賀原発にも近い能登半島地震が発生し、地震大国の日本で原発を動かし続ける危険性が改めて浮き彫りになった。
新規制基準は活断層上への重要設備の立地を認めていない。事実上の「不合格」だ。正式決定されれば、2012年の規制委発足以来初めてとなる。
原電は活断層ではないと主張してきたが、9年近くに及ぶ審査で明確な科学的根拠を示せなかった。審査資料の不備で行政指導を受けたこともあった。
規制委の今回の判断は極めて妥当と言えよう。
原発に依存しない社会へ改めて踏み出す機会とすべきだ。
■廃炉を決断すべきだ
問題の断層は、規制委の専門家会議から13年に「将来動く可能性がある」と評価された。
原電は15年に追加調査結果を示して再稼働の審査を申請したが、その後に千カ所を超える書類の誤記や、地質データの無断書き換えなどが発覚した。
規制委に社内管理体制を問題視され、地元自治体からも信頼性を疑う声が出ている。
早く廃炉を決断すべきだ。
この間、北電は規制委に安全意識の低さを指摘され、企業体質の改善を促されてきた。
自らに注がれている厳しい目を自覚する必要がある。
■規制委は独立性貫け
福島事故を教訓に定められた新規制基準では、評価が難しい場合は安全性を重視して判断することが求められている。
規制委が「疑わしきは再稼働を認めず」という基本姿勢を貫いたことは評価したい。
原発の60年超運転を可能にする法整備の過程では、規制委が異例の多数決で法案を承認するなど、政権の意向に沿うかのような姿勢が見られた。
福島事故の教訓である「推進と規制の分離」を揺るがしてはならない。老朽原発などの審査でも、基本姿勢に立脚した厳格な対応が求められる。
■再エネこそ主力電源
焦点の一つは、将来の電力需要想定と電源だ。大量の電気を使うデータセンター(DC)や半導体工場の計画が相次ぎ、需要増が見込まれている。
脱炭素と安定供給の両立は必須である。だが原発は巨額の安全対策費を要し、もはや安価な電源ではない。一度事故が起きれば、周辺地域に将来にわたって甚大な被害をもたらすことも忘れてはなるまい。
脱炭素と原発活用を安易に結びつけることは認められない。
現行の基本計画まで盛り込まれてきた「原発依存度を可能な限り低減する」との方針は、福島事故後の日本のエネルギー政策の原点である。
改定は原発推進ありきではなく、意見を幅広く聞いて議論していくことが欠かせない。
12年に規制委が発足して以降、審査対象になった原発は全国で27基に上るが、初の「不合格」のケースとなる。
廃炉の道を選ぶべきだ
15年に始まった審査で最大の焦点となったのは、原子炉から北約300メートルの場所で確認された断層である。活断層かどうか、原子炉建屋の直下までつながっているのかどうかが問われた。
規制委は、現地調査や原電の報告を踏まえ、活動性と連続性はいずれも「否定できない」とした。「活断層ではない」との原電の主張は、科学的に裏付けられていないとして認めなかった。
原電は今後も調査を続けると表明した。だが、これまで規制委の不信を招いてきたのは、審査に臨む原電の姿勢そのものである。
質問に対し、担当者が適切に答えられない場面が繰り返された。提出した資料には、地層データの無断書き換えや記載ミスが相次いで見つかった。規制委は事態を重視し、審査を2度にわたって中断した。原電本社に立ち入り検査をする異例の措置まで取った。
原電は地震のリスクに真摯(しんし)に向き合ってきたとは言いがたい。
懸念や不安を抱えたまま、運転を認めることは許されない。
原電の役割を見直す時
いずれも現在は廃炉作業中だ。現有するもう1基の東海第2も、再稼働の見通しは立たない。長期にわたって発電できない状態だ。
その経営を支えるため、東京や関西など大手電力5社が年900億円ほど支払っている。これ以上の支援を続けることに、株主や利用者の支持を得られるだろうか。
だが、どんなに対策を講じようとも災害のリスクをゼロにすることはできない。使用済み核燃料の保管や核のごみの最終処分地選定など多くの課題が山積している。
原発の利用を続けるのであれば、国民の不安払拭(ふっしょく)に努めなければならない。安全性を高めるため、政府と事業者には検証と対策を尽くす責務がある。
規制委はこの点について、「可能性は否定できない」とした。
原電が2015年に安全審査を申請してから、既に9年近くが経過している。原電と規制委の間ではこれまで、断層の評価を巡る本質的な議論よりも、書類の不備など形式的な問題で時間を空費した感が否めない。
19年には原電が提出した資料に多数の誤記が見つかった。さらに20年にはボーリング調査の資料を規制委に無断で書き換えたことが発覚し、審査が中断した。活断層の議論が再び本格化したのは、昨年9月以降のことだ。
再稼働を認めないとする規制委の判断には、不手際を重ねた原電に対する不信感も大きく影響したのではないか。
原電は規制委の判断を不服として、今後も追加調査を続け、安全審査の再申請や書類の修正を行いたいとしている。説得力のある新たなデータを集められるかが焦点となるだろう。
規制委と原電は対話を続け、双方とも納得できる科学的な結論を得ることが求められる。
運転可能な原発数の見通しを得ることは、日本のエネルギー政策の根幹に関わる。安全性に配慮しつつ、審査を急ぐべきだ。
原子力規制委員会は26日の審査会合で、福井県の敦賀原発2号機の原子炉真下に活断層が走る可能性を否定できないと結論づけた。原子炉が活断層の上にないのが安全確保のための大原則で、同原発は再稼働の道を閉ざされる。
2011年の東京電力福島第1原発事故以降、電力各社が原発を動かすには新規制基準をクリアしなければならない。これまでに27基が申請し、17基が合格した。敦賀2号機は初の不適合となる。事業者の日本原子力発電は今回の判断を重く受け止めねばならない。
審査では敷地内を通る「K断層」が活断層か、原子炉建屋の下まで延びているかが焦点だった。規制委は日本原電の提出資料などを精査し、いずれの可能性も否定できないと判断した。
日本原電側は追加調査を行って資料を提出し直すと主張し、短期間での審査打ち切りに抵抗してきた。しかし15年に再稼働を申請した後、資料の書き換えなどが発覚し、審査を2度も中断させた責任は同社にある。規制当局の不信感は解消されず、原発事業者としての資質も問われたといえる。
原発専業の日本原電は民間とはいえ特殊な会社だ。1966年に国内初の商業炉の東海原発を稼働させ「国策民営」で歩んできた。日本の原子力政策の象徴的な存在だ。同社は茨城県の東海第2原発も保有するが、こちらも再稼働の見通しは立っていない。
同機は、原発に対する新規制基準に適合しているとは認められないとされたのだ。審査チームの判断は、31日の規制委定例会に報告される。この判断が規制委の審議で追認されると再稼働を目指した原発の初の不合格例となってしまう。
日本原電は詳細な地質調査を通じて活断層ではないことの立証に努めており、追加調査の継続や審査の再申請を強く希望している。原発の安全審査を公平で透明性のあるものにするためにも山中伸介委員長以下、5人の規制委員は、議論の継続を受け入れるべきだ。
「悪魔の証明」の強要だ
その理由は、規制委事務方の規制庁職員で構成する審査チームの議論の組み立て方が非科学的で強引に過ぎるからだ。
同チームは2号機の北側約300メートルにあるK断層に注目し、5月末の審査会合で、この断層の「活動性を否定することは困難である」とした。
そして26日の審査会合では「連続する可能性が否定できない」との判定を下した。K断層について活動性と連続性がそろったことで、活断層が2号機の下を走っているという結論を導き出したのだ。
この結論に至る過程の要所で「ないとは言い切れず」「可能性が否定しきれていない」などの論法が駆使されている。いわゆる「悪魔の証明」を要求された日本原電側は、完璧な立証が至難となった観がある。
たとえば、下部の地層から上部に延びるK断層が約13万年前より古い地層で止まっている状況を日本原電が見つけても活断層でないことの証拠として認められない。
K断層はとぎれとぎれに出現するので、もっと上部のより新しい時代の地層に出現していた可能性があるというのが審査チームの言い分なのだ。
だが、そのもっと上部の地層は過去の建設工事で掘削、除去されている。審査チームは、除去された上部の地層にK断層の痕跡が刻まれていた可能性は否定できない―と迫るわけだから強弁そのものだ。
そもそも問題のK断層は、上方から俯瞰(ふかん)するとぐにゃぐにゃと蛇行している。しかもとぎれとぎれだ。これが破壊力を持つ活断層なのか。
2号機の下に活断層があると最初に主張したのは、規制委の下に法的根拠のないまま設置された有識者会合だ。平成25年のことだった。日本原電の反論を無視しての一方的な宣言だった。十分な調査と議論を欠いたまま行われた11年前の粗略な判定の軛(くびき)に規制委と規制庁が縛られているなら、そのこと自体が重大な問題だ。
規制の進化が望まれる
規制委と規制庁は、自己改革による組織の進化が停止しているのでないか。
規制委は「独立した意思決定」など5項目の「活動原則」を掲げているが、「効率性」は含まれない。米国の原子力規制委員会(NRC)の5原則には「効率性」が明記されているのと対照的だ。
原発に高い安全性が求められるのは当然だが、規制委は最も重要な大局観を失念しているのでないか。規制委が再稼働を目指す原発に求める地震や津波への多数の安全対策は、網羅的な部分最適の集合だ。原発の安全対策は全体最適を実現しなければ意味がなく、かえって非常時のリスクを高めかねない。
原発規制の範とされるNRCもスリーマイル島原発事故を踏まえて自己改革を重ね、現在の健全な組織に進化した。山中委員長にはこの先例を手本にしてもらいたい。規制委の活動原則には「国内外の多様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒める」の一文もあるではないか。
現在の規制委では、緊張を増す国際情勢下での電力安定供給に不安を招く。世界的な脱炭素の要請にも対応不能だ。規制委が国の行政機関であることを忘れると多方面で齟齬(そご)を来す。
規制委の自己改革の第一歩として、まずは審査の信頼性を増すためにも敦賀2号機の安全審査の継続を求めたい。
原子力規制委員会は、日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県敦賀市)の直下に延びる断層は活断層であり、福島第1原発事故後に定められた新規制基準に適合しないと結論づけた。2号機は原発事故後初めて「再稼働不可」となる。「安全側に立つ」という、原子力規制のあるべき姿が、ようやく示されたと言えるだろう。
断層とは、地下の岩盤が動いてできた亀裂のことを言う。
福島の事故の教訓を踏まえて2013年に定められた新たな規制基準では、「後期更新世」以降(約12万~13万年前以降)に動いたと判定される断層を、将来も動く、すなわち大地震を引き起こす恐れがある活断層と定義。その上に原子炉など、安全上の重要施設を設置することを認めていない。
審査では、原子炉の北300メートルにある「K断層」が活断層か否か、そして、2号機直下を走る「D-1断層」がK断層と連動して動くかどうかが焦点だった。
規制委はK断層の活動性を「否定することは困難」としていたが、さらに今回、6月の現地調査の結果を踏まえて、D-1断層との連続性もあると判断した。
活断層の存在を否定する原電側の提出資料には、誤記やデータの無断書き換えといった不備が相次ぎ、審査は8年余にも及んだ。
これまでに、12基が申請通り再稼働しており「規制が骨抜きになっているのでは」という批判の声も強まっている。
ただ、敦賀2号機に関しては、「不確かさがあれば、安全側に立って判断する」という本来の使命に立ち返ったと言えるだろう。
日本原子力発電の敦賀原発2号機(福井県)について、原子力規制委員会はきのうの再稼働審査で、原発の新規制基準に「適合しない」と判断した。原子炉直下に活断層があることを否定できず、規制委として初めて不合格との結論を出した。
敦賀原発の断層は1990年代には指摘されていた。2013年には、規制委の有識者調査団が現地視察などで、2号機直下にある敷地内断層の「破砕帯」を活断層だと認定した。しかし最終決定ではなく、「審査の参考」との位置付けにとどまっていた。
原電は活断層ではないと主張。11年にトラブルで停止していた2号機の再稼働を目指して、15年に規制委に審査を申請していた。
ところが、その後の原電の対応には不手際が目立った。まず19年、断層調査に関する資料で千カ所以上の記載不備が見つかった。20年には地質の生データの無断書き換えが判明し、審査は中断した。
再開後も22、23年に地層の観察場所を間違えるなどの訂正が相次いだ。実質的審査に入れない状態が約4年間続くなど、多くの時間がかかったが、ようやく決着がついた。
相次いだ原電の不手際は、単純ミスだと見過ごすわけにはいかない。というのも、茨城県にある東海原発2号機を巡っても核燃料に関するデータを誤って審査資料に記載していた。原子炉等規制法に基づく保安規定違反に当たると、規制委から断罪された。
安全性を審査するため、規制委に出す書類を何度も間違えること自体、あってはならないし、信じられない。社内のチェック体制の不備や、安全意識の欠如が懸念される。
有識者による調査で活断層と認定されて10年余り。反論するには十分な時間があったのに、活断層の可能性を否定できなかった。時間が足りないのではなく、科学的な根拠が乏しい証しである。いたずらに時間や労力を費やすのではなく、速やかに廃炉の準備を進めるべきだ。
岸田政権が原発回帰へと、かじを切って以降、規制委の姿勢にひときわ注目が集まるようになった。今回、政府や関連業界の思惑に左右されることなく、独立行政機関として筋を通したことになる。