安否不明者の氏名公表 災害訓練時に手順確認を(2024年2月28日『福井新聞』-「論説」)

 能登半島地震で石川県は、連絡が取れない安否不明者の氏名を早期に公表した。生存情報が多数寄せられ、捜索対象の絞り込みに寄与した。福井県も「家族の同意なしで原則公表」との基準を設けており、迅速で的確な人命救助につなげたい考えだ。大規模災害時は関係機関が大混乱に陥る。市町や警察などと事前調整を図り、災害訓練の際は氏名公表までのシミュレーションを行ってほしい。

 石川県内の被災自治体には、地震発生直後から家族らの安否を尋ねる問い合わせが殺到したという。県は事前に決めていた「おおむね48時間をめどに順次公表」とする基準に沿い、約55時間が経過した1月3日深夜から安否不明者の公表を始めた。「48時間」とするのは生存率が大幅に下がるとされる「発生72時間」が念頭にあるためだ。名前を公表すれば住民の安心にもつながる。今回の対応に首長や住民からは評価の声が上がっているようだ。

 福井県は2022年1月、安否不明者の公表が捜索に役立った21年7月の静岡県熱海市の土石流災害などを踏まえ、公表方針を決定。昨年5月には、家族の同意がなくても原則公表するとした国の指針を受けて改正した。ドメスティックバイオレンス(DV)やストーカーの被害者などを除き、氏名や住所、年齢、性別について「48時間」をにらみ順次公表していく。手順をまとめたマニュアルも作成している。

 能登半島地震は帰省者や旅行者も巻き込んだ。ある自治体は安否情報の問い合わせに専念する職員を置いたという。参考にしたい。

 一方で死者の氏名公表は、地震の2週間後にずれ込んだ。初日は23人だったが、この時点で既に200人を超す犠牲者が確認されていた。死者に関しては国の公表指針がなく、石川県独自の基準で遺族の同意を条件としていた。馳浩知事は「救助や検視をして、その上でご遺族を捜して同意を得るプロセスに時間を要した」と説明した。

 福井県は、救助活動の円滑化につながらないとして現時点で非公表の立場。関東地方知事会は昨年11月、死者の氏名公表に関する統一ルールを求める要望書を国に提出した。広域災害の際、各自治体によって取り扱いが違うと混乱を招くといった理由からだ。福井県も「国で決めるのなら検討したい」とする。

 災害検証などのため、死者の氏名公表の意義は大きい。人が生きた証しでもある。国が主導して議論を深め、統一基準を作るべきだ。