【こおりやま広域圏】試される課題解決力(2024年2月28日『福島民報』-「論説」)

 県中・県北・会津にまたがる17市町村で組織する、こおりやま広域連携中枢都市圏(こおりやま広域圏)は鉄道利用の活性化促進に取り組む。赤字が増大するJR水郡、磐越東、磐越西の各線を抱え、存続を願う沿線自治体の危機感は高まっているためだ。治水目的の阿武隈川遊水池整備など住民の暮らしとなりわいに直結する懸案もあり、広域圏の課題解決力が試される。

 広域圏は総務省地方自治制度で、こおりやまは2019年に設置された。新年度に始まる5カ年の新ビジョンで連携事業を80から87に拡大し、鉄道利用促進を初めて盛り込む予定だ。

 利便性向上と需要喚起が鍵を握る。水郡線磐越東線は、県と沿線市町村などでつくる活性化対策協議会と連携して実効策を打ち出せるかに懸かる。磐越西線は、議論の枠組みが模索されている。

 中でも先行するのは水郡線だ。ほぼ並行する久慈川沿いに自転車専用道が整い、自転車を列車に持ち込めるサイクルトレインが運行している。活性化対策協議会ではアプリでポイントをためながら周遊するロゲイニングや駅で地元産品を販売するマルシェを実施する案が出ている。磐越東線常磐線とは中・浜通りを結ぶ三角形路線を形成し、内側に福島空港がある。空路と鉄路を絡めた広域の観光商品造成は可能性を秘めている。

 人口減少の中で日常利用拡大は難題だ。医療機関が集中する郡山市には以前から通院利用が多い。各駅を医療サービスの拠点とし、地域医療充実を図れないか。JRの交通系ICカードSuica(スイカ)の利用拡充など設備更新を望む声にも応えたい。

 遊水池整備地の鏡石、矢吹、玉川3町村からは農家・農地移転など大きな負担があるにもかかわらず、水害が軽減する下流域市町村の関心が薄い、と不満が漏れる。流域全体で事業への理解を深め、防災効果を高めるのに広域圏の果たせる役割はあるはずだ。

 広域圏は新ビジョン案で「市町村間連携、境界にとらわれない取り組みの深化」「圏域形成メリットを住民が実感できる取り組みの深化」を掲げる。とはいえ、目下の課題への解決力を発揮できなければ、連携事業は画餅に帰しかねない。目に見える成果を期待したい。(鞍田炎)