災害犠牲者の名前 原則公表へ政府は方針を(2024年2月22日『中国新聞』-「社説」)

 安否不明者や死者の名前をどう扱うか―。全国各地で毎年、地震や豪雨などの自然災害が起きるたび、都道府県や自治体は頭を悩ませてきた。

 安否不明者については昨年3月、原則公表とする指針を内閣府がまとめ、整理がついた。2018年の西日本豪雨では被災県ごとに名前の扱いが分かれたため、統一した基準を設けるよう全国知事会が求めたことが結実した。

 ところが、死者について政府は依然、個人情報保護法の対象外として、方針を示していない。このため、「県境をまたぐ災害で県によって対応が変わると混乱する」など複数の県が懸念している。

 共同通信による昨年の調査では、岡山をはじめ中国地方の3県を含む34都道府県が、統一的な方針を示すよう求めていた。現場の混乱を避けるには、政府として考え方を整理しなければならない。

 年明け早々の能登半島地震で石川県は、発生2日後から安否不明者の名前を公表し始めた。政府の指針が後押しとなった。西日本豪雨岡山県のように、迅速に公開して捜索の無駄を省けたことが、全国に広まった証しでもある。

 もちろん名前を公表する前にドメスティックバイオレンス(DV)被害者らがいないか、確認することが必要だ。

 ただ、能登半島地震では懸案の死者の名前は公表開始まで2週間かかった。石川県が「遺族の同意」を条件としていたため、確認に時間や手間がかかり、遅くなった。

 広島、山口両県も石川県と同様、「遺族の同意」を公表の条件としている。深刻な被害を受けた中、遺族を捜し当て、意向を尋ねるのは心苦しいだろう。人命救出や被害状況の把握、復旧が課せられる中、市町村の職員らの現場での苦労が思い浮かぶ。

 遺族の同意を条件とした点について、専門家には異論もある。安否不明者は、個人情報保護法の対象だが、死者は対象ではない。死者と遺族は別人格で、遺族の同意が必要という法的根拠もない。

 遺族とは何親等まで指すのかなど、定義も曖昧だ。遺族間で意見が食い違った場合のルール作りも欠かせない。

 とはいえ、災害への備えは待ったなしだ。遺族に配慮しつつ大規模災害を視野に入れた兵庫県のような例もある。

 安否・行方不明者に含まれていない人が死亡した場合は遺族の同意を条件とした。その上で、南海トラフ地震といった大規模災害時には、遺族の同意なしで公表する場合があると明記した。市町村に強いる、意向確認という負担の軽減につなげられそうだ。

 災害犠牲者の名前公表について、全国知事会は公益性があるという。国民の「知る権利」に応え、災害の教訓を後世に残すことになるからだ。

 加えて、犠牲者一人一人の名前を明らかにすることで、単なる人数としてではなく、家族や友人にとって、かけがえのない人だったことへの理解も広がるはずだ。

 だからこそ、政府に求めたい。災害犠牲者の名前も原則公表とするよう、統一した方針を示すべきである。