台湾で大地震に関する社説・コラム(2024年4月4日)

地震で被害を受けた台湾東部・花蓮を訪れた頼清徳副総統(手前中央、中央通信社=共同)

 

台湾地震 日本は恩返しの支援を(2024年4月4日『東奥日報』ー「時論」/『茨城新聞山陰中央新報』-「論説」)

 

 台湾で震度6強地震が発生、東部の花蓮などで建物が倒壊して死傷者が出ている。約250キロ離れた日本の石垣島などでも津波が観測されており、台湾での被害は拡大しそうだ。

 日本は台湾と正式な外交関係がないが、過去の震災で互いに助け合い、絆を強めてきた。台湾は1月の能登半島地震でも直ちに救助隊を派遣する態勢をとった。今度は日本が支援を行う時だ。

 台湾の発表によると、震源地は台湾東部沖で、地震の規模はマグニチュード(M)7・2。全土で揺れを感じたほか、建物倒壊や土砂崩れなどが起きた。一部で学校は休校となり鉄道も運休した。

 まだ被害の全容は分かっていないが、台湾メディアは1999年9月に起き、2400人を超す死者が出た中部地震以来の規模だとしている。台湾では99年の地震後に建物の耐震基準を強化したが、老朽化している建物も多いとみられる。

 台湾は、ユーラシアプレートフィリピン海プレートがぶつかる位置にあり、日本と同じ地震多発地帯だ。花蓮では2002年にM6・8、18年にはM6・4の地震が発生し、死傷者が出た。

 日本は1999年の地震で救助隊を派遣。阪神大震災で役立った仮設住宅を寄贈した。2011年の東日本大震災では、台湾は緊急援助隊を送ったほか、200億円という世界トップクラスの寄付金を贈り、日本人を驚かせた。

 18年の花蓮地震では、日本が救助隊を派遣。能登半島地震では日本側にニーズがなく、救助隊派遣は実現しなかったが、台湾政府が中心となって募金活動を行い、25億円を超える寄付金を集め、石川県民から感謝された。震災を巡り互いが「恩返し」をする日台の好循環を生んでいる。

 日本は1972年に中国との国交正常化と同時に台湾と断交し、台湾との関係は弱まった。だが人道支援は外交の壁を乗り越えて民間関係を強めた。今回も交流サイト(SNS)では「今こそ台湾を支援しよう」といった書き込みが相次ぐ。被害の広がりは避けられない見通しで、台湾が必要とするなら日本はできる限りの支援をすべきだ。

 岸田文雄首相は「要請に応じて早急に支援を行う」と述べた。被害の程度によるが、住民の救助のほか、医療や地震の専門家の派遣も想定される。被災者の生存率は災害発生後72時間が鍵とされ、救助隊の派遣はスピードが重要だ。

 1月の台湾総統選で、中国と距離を置く民主進歩党(民進党)の頼清徳候補が当選したため、中台関係は険悪になっている。中国は台湾海峡で軍事威嚇を繰り返し、台湾と外交関係を維持してきた南太平洋の島国ナウルと国交を結んで台湾と断交させた。

 だが中国は政治的な問題とは別次元で、積極的に支援の手を差し伸べるべきだ。中国が寛容な態度で臨めば台湾人の心をつかみ、平和的対話のきっかけとなる可能性もある。

 99年の地震では、各国政府から相次いだ台湾への支援に対し、中国外務省が一方的に台湾を代表して国際支援に感謝を表明。18年の花蓮地震では、中国は民進党蔡英文政権の頭越しに、中国と関係の良い花蓮県長に直接支援を申し出た。こうした政治的な対応は、かえって台湾人の反発を買う結果になるだろう。

 

台湾で大地震 効果的な支援を届けたい(2024年4月4日『産経新聞』-「主張」)

 

 3日朝(日本時間午前9時前)、台湾東部の海域を震源とする強い地震が発生した。

震源に近い花蓮県などではビルの倒壊や土砂崩れにより大きな被害が出ている。

この地震気象庁沖縄本島地方と宮古島八重山地方に津波警報を出した。午前10時40分には津波注意報に切り替え、正午に解除した。

 現地では断続的に余震が発生し、被災者は不安を募らせている。岸田文雄首相は「必要な対応に万全を期し、早急に支援を行っていく」と述べた。

 台湾加油(がんばれ)。被災状況の把握に努め、人命救助や医療、生活支援など現地のニーズに沿った効果的な支援で台湾の人たちの力になりたい。

 気象庁によると、地震の規模はマグニチュード(M)7・7と推定され、最大震度6強だった。元日の能登半島地震(M7・6)や2413人の死者を出した台湾の集集地震(1999年、M7・7)とほぼ同規模だ。宮古島与那国島では30センチの津波が観測された。

 台湾と日本列島は、フィリピン海プレートと大陸側のプレートの境界に沿った一連の地震多発帯に位置する。東日本大震災では台湾からの支援が被災者の支えとなった。2018年の台湾東部地震花蓮地震)で、台湾が海外からの支援を受け入れたのは日本だけだった。災害時に限らず、支え合い高め合う信頼関係を大切にしたい。

 今回の地震では陸域に被害が及ぶほどの津波は発生しなかった。沖縄本島宮古島八重山諸島では島民、観光客らが避難所などに身を寄せた。津波防災の意識を再確認し、共有する契機としたい。

 1771年に起きた八重山地震はM7・4と地震の規模は3日朝の台湾東部地震より小さいが、最大波高数十メートルの巨大津波八重山地方の島々を襲い、石垣島では住民のほぼ半数が死亡した。沖縄県民だけではなく観光客も、この津波のことは知っておくべきだ。

 津波の発生メカニズムは十分に解明されておらず、予測の精度には限界がある。実際の津波が予測より小規模にとどまるとはかぎらない。東日本大震災八重山地震のような巨大津波から命を守り抜くには、予想波高や到達時間にとらわれずに避難に徹するしかない。

 

(2024年4月4日『新潟日報』-「日報抄」)

 

 外国を「海の外」、すなわち「海外」と呼ぶのは世界の中でも少数派だろう。多くの国は地続きで隣国と接する。日本語の「海外」は、わが国が四方を海に囲まれていることの表れだ

▼それゆえに、外国から伝わった文化やモノは多くが海を越えてやってきた。漢字や仏教は大陸から伝来した。ネギやハクサイなど元をたどれば外国原産の野菜も多い。逆に日本から外国に伝わったケースもあるだろう。島国日本は海を経由して多種多様なものをやり取りしてきた

▼その中には災害までも含まれる。きのう午前、台湾で発生した大地震の影響で沖縄周辺に津波警報が出され、実際に潮位の変化が観測された。沖縄での最大震度は4だったが、津波は海を伝わって与那国島宮古島に到達した

▼甚大な被害が発生したこともある。1960年、南米のチリで起きた巨大地震により発生した津波は太平洋側の各地に到達した。東北を中心に死者・行方不明者は142人に上った。「チリ地震津波」の名前でよく知られている

▼本県も、能登半島地震津波で被害が出たことは記憶に新しい。遠くで起きた地震でも、津波が襲来する可能性はある。素早い避難をはじめ、命を守る心構えを再確認したい

▼今回の津波を引き起こした大地震は、震源に近い台湾に大きな被害をもたらした。現地からの映像を見ると、能登の被災地の惨状を思い起こす。能登での地震の際は、台湾から多額の善意が寄せられた。海を越え、今度はこちらから支援を届けたい。

 

台湾地震 日本はできる限りの支援を(2024年4月4日『中国新聞』-「社説」)

 台湾できのう、東部沖を震源とする大きな地震があった。日本の気象庁地震の規模をマグニチュード(M)7・7と推定している。観光地として知られる東部の花蓮では、震度6強が観測された。各地で多数の死傷者が出ているという。

 ゆったりとした台湾の朝の風景が一変した。建物が大きく傾き、砂ぼこりを上げて山肌が崩れるニュース映像は衝撃的だった。

 まだ被害の全容は分かっていない。台湾メディアは2400人を超す死者が出た1999年の台湾中部大地震以来の規模だと報じている。

 国内でも沖縄県与那国島で震度4となり、宮古島とともに最大30センチの津波が押し寄せた。気象庁は、今後1週間は同程度の地震に注意してほしいと呼びかけている。警戒を続けたい。

 台湾は、ユーラシアプレートフィリピン海プレートがぶつかる位置にあり、日本と同じく地震が多発する地帯だ。近年もM7程度の地震がたびたび起きてきた。専門家によると、今回はフィリピン海プレート台湾島に衝突することが原因の直下型地震の可能性があり、海岸線に沿って分布する活断層で起きたとみられる。1月の能登半島地震と似たメカニズムだろう。

 台湾政府は中部大地震を受けて耐震基準を強化したが、対策が行き届いていたとは言い難い。台湾を訪れる観光客には、古い建物がひしめく街並みに驚く人が多い。都市部では屋上に階を上積む違法な増築が後を絶たないという。かねて指摘されていた耐震性の低さが被害を広げた形だ。建物が倒壊し死者が出た花蓮は人口約30万人の観光拠点でアミ族など少数民族が多い。

 日本は台湾と正式な外交関係がないが、過去の震災では助け合ってきた。中部大地震で日本は救助隊を派遣。阪神大震災で役立った仮設住宅を寄贈した。2011年の東日本大震災では台湾が救助隊を送ったほか、200億円を超す義援金を贈った。能登半島地震でも直ちに救助隊を派遣する態勢をとった。

 日本と台湾は、観光や経済など幅広い分野で強い結び付きがある。台湾が必要とするなら、住民の救助や医療、地震の専門家の派遣など、できる限りの支援をするべきだ。

 中国との関係に与える影響も注目される。今回の地震を受け、中国政府は「心からお見舞い申し上げる」と談話を発表し、「災害救援協力を提供したい」と表明した。中国が寛容な態度で臨めば、緊張が緩和する方向に動く可能性もある。

 中国地方にも広島市山口県岩国市にまたがる「岩国―五日市断層帯」などがある。活断層のリスクをいま一度、見つめ直したい。

 近い将来に起こり得る南海トラフ巨大地震では多数の死傷者に加え、道路や上下水道、通信が寸断され、集落が孤立したり、救助が遅れたりする可能性も想定しなければならない。これまでの震災で得てきた教訓を十分に生かせるよう、危機感を持って備える必要がある。

 

台湾地震(2024年4月4日『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆日本は全力で支援すべきだ◆

 台湾で震度6強の地震が発生、台湾東部の花蓮などで建物が倒壊して死傷者が出ている。約250キロ離れた日本の石垣島などでも津波が観測されており、台湾での被害は拡大しそうだ。

 日本は台湾と正式な外交関係がないが、過去の震災で互いに助け合い、絆を強めてきた。台湾は1月の能登半島地震でも直ちに救助隊を派遣する態勢をとった。今度は日本が支援を行う時で、台湾が必要とするならできる限りの支援をすべきだ。

 台湾の発表によると、震源地は台湾東部沖で、地震の規模はマグニチュード(M)7・7。全土で揺れを感じたほか、建物倒壊や土砂崩れなどが起きた。一部で学校は休校となり鉄道も運休した。

 まだ被害の全容は分かっていないが、台湾メディアは1999年9月に起き、2400人を超す死者が出た中部地震以来の規模だとしている。台湾では99年の地震後に建物の耐震基準を強化したが、老朽化している建物も多いとみられる。

 台湾は、ユーラシアプレートフィリピン海プレートがぶつかる位置にあり、日本と同じ地震多発地帯だ。花蓮では2002年にM6・8、18年にはM6・4の地震が発生し、死傷者が出た。

 日本は1999年の地震で救助チームを派遣。阪神大震災で役立った仮設住宅を寄贈した。2011年の東日本大震災では、台湾は緊急援助隊を送ったほか、200億円という世界トップクラスの寄付金を贈り、日本人を驚かせた。

 18年の花蓮地震では、日本が救助隊を派遣。能登半島地震では日本側にニーズがなく、救助隊派遣は実現しなかったが、台湾政府が中心となって募金活動を行い、25億円を超える寄付金を集め、石川県民から感謝された。震災を巡り互いが「恩返し」をする日台の好循環を生んでいる。

 本県では高千穂町花蓮市姉妹都市盟約を19年に締結しているが、それ以前から交流が続いている。18年の地震では町内で集めた義援金を同市へ送り、コロナ禍の20年には、同市からフェースシールドなど防護物資が送られるなど、互いが困難に直面した時に手をさしのべている。今回も同町は見舞いのメッセージを直ちに送り、支援の意志を明確にしている。県全体でも被災地に心を寄せ、できることから行動したい。

 岸田文雄首相は「要請に応じて早急に支援を行う」と述べた。被害の程度によるが、住民の救助のほか、医療や地震の専門家の派遣も想定される。被災者の生存率は災害発生後72時間が鍵とされ、救助隊の派遣はスピードが重要だ。