「変わり果てた能登を記録しなければ」 震災で休刊した地域情報誌が再スタート 「廃刊」も頭をよぎった(2024年2月27日『東京新聞』)

 能登半島地震で創刊以来初めて休刊した情報誌「能登」が、4月の新刊発行に向けて準備を進めている。編集長の経塚(つねづか)幸夫さん(70)=石川県輪島市門前町=は、自宅兼編集室や、住職を務める寺が大きな被害を受けた。苦しい状況の中でも、「変わり果てた能登を記録し、伝える」。その使命感で再スタートを期す。(柴田一樹)

◆2010年創刊 企画や取材、郵送をほぼ一人で

 情報誌の内容はグルメ、文化財能登への移住者や土地が抱える課題など。石川県宝達志水町以北の市町と富山県氷見市をエリアに、丹念に取材した情報を100ページに盛り込む。春夏秋冬の年4回、各回約4千部発行。デザインなど一部を外注するが、企画や取材、執筆、定期購読者への郵送など経塚さんがほぼ1人で担ってきた。
情報誌「能登」編集長の経塚幸夫さん。被災した編集室は、まだ物が散乱している=石川県輪島市門前町で

情報誌「能登」編集長の経塚幸夫さん。被災した編集室は、まだ物が散乱している=石川県輪島市門前町

 経塚さんは地元新聞社の記者や事業部員として30年ほど勤め、2007年に退社し、金沢市から移住した。妻の実家で現在の自宅に隣接する真覚寺を継ぎ、住職になった。その傍ら、新聞社時代に能登各市町での事業運営に携わった経験を生かし、能登密着の情報誌を10年10月に創刊。「能登人」を深く掘り下げる編集方針を掲げてきた。

校了終えた冬号発売前に休刊決意

 休まず発行を続け、創刊丸13年を過ぎたところで、元日の震災が襲った。自宅や寺は壁がはがれるなどして一部崩落。編集室も足の踏み場がないほど物が散乱した。校了を既に終えて1月15日に「冬54号」の発売を予定していたが「誰も読める状況じゃない」と初の休刊を決意した。
「能登」の表紙

能登」の表紙

グルメなどの内容を盛り込んでいる

グルメなどの内容を盛り込んでいる

 「このまま廃刊」。そう頭をよぎったが、傷ついた被災地を後世に伝える使命感が勝った。「役に立つなんか分からない。でも千年に1度っていわれる災害に立ち会ったんだ。情報誌として記録しないと」。海底が隆起して、防波ブロックより奥に新たな砂浜が現れた自宅前の光景を見つめながら話す。
 全国の購読者から心配の声や復刊を待ち望んでいるという連絡もあった。経塚さんは現在、金沢市にある自身の実家に避難。自宅の片付けのために輪島市との間を往復しながら、4月発売予定の「春55号」に向けて誌面の構想中だ。

◆発刊継続へ寄付募る

 「まずは被災状況を記録し、夏以降は復興に向けての歩みを伝えていきたい」と見据える。「まだ私も半分宙に浮いている感覚だが、編集作業で日常を取り戻したい。締め切り日をつくらないとダメな性格なんでね」と頭をかく。
 経塚さんは発刊継続への寄付も募っている。詳細は「能登」の公式ホームページから。