台湾からの黒船(2024年2月26日『中国新聞』-「天風録」)

 スマートフォンから家電、車まで広く使われている半導体の売上高で、日本は世界シェアのほぼ半分を占めていた。1980年代の後半、列島がバブルに沸いていたころ。集積地の一つだった熊本県で工場を見学して、最先端の技術に触れたことがある

▲その後、日本の半導体産業は、景気と軌を一にして衰退した。往時の勢いを復活させるきっかけになってほしい―。そんな期待を背に受け、受注生産で世界トップシェアを誇る台湾のメーカーが熊本県に進出してきた

▲多くの雇用を生み、初任給も熊本県平均を4割近く上回るという。その分、働き手確保の競争は激化しかねない。人材育成を求められる周辺の大学や高専は、対応に追われている。地元に与えた衝撃は強烈で、「黒船」に例えられるのもうなずける

▲熊本だけの話ではない。例えば北海道には工場建設中の新しい半導体メーカーがあり、東広島では米大手が工場を増強する。いずれも国による巨額支援に見合った波及効果がないと困る

▲太平の眠りを覚ました黒船の再現なるか。折しも、株価はバブル期に記録した最高値を更新した。徳川300年とは比較にならぬが、近年の失われた30年は長過ぎる。