政倫審開催へ 国会の権威にかかわる(2024年2月26日『山陰中央新報』-「論説」)

自民党政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会に関し、会談に臨む自民党浜田靖一国対委員長(中央左)と立憲民主党安住淳国対委員長(同右)ら=21日、国会


 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る国民の疑念を解消できるのか。国会の権威がかかっていると言えよう。その重大さを自覚し、資金が還流された議員は審査に臨まなくてはならない。

 衆院は裏金事件に関わる政治的、道義的責任を明らかにするため、28日から2日間の日程で、政治倫理審査会を開くことで与野党が大筋合意した。2018年から5年間で、政治資金収支報告書に総額約5億8千万円の不記載が判明している。政倫審の開催は当然だ。安倍派の松野博一官房長官、高木毅前国対委員長西村康稔経済産業相塩谷立文部科学相と、二階派武田良太総務相の計5人が審査の対象になる。

 立憲民主党など野党は派閥からの還流を収支報告書に記載していなかった衆院議員51人の出席を要求していたが、自民党は政倫審規程に基づき本人から審査の申し出があったとして5人に絞った。

 松野氏らは派閥実務を取り仕切る事務総長などを経験していることも「線引き」の理由であろう。とはいえ、自民党の自己申告形式のアンケートで不記載額が3526万円と最も多かった二階俊博元幹事長、2728万円だった萩生田光一政調会長が含まれていないのには釈然としない。

 不記載額が多いということは議員本人は否定しても、裏金づくりに長じているとみなされても仕方ない。5人の審査で済ますことなく、対象の拡大を検討すべきだ。

 政倫審で問われるのは、還流資金の不記載が誰の指示でいつから始まったのかと、その目的や具体的使途である。

 安倍派では22年当時、会長だった安倍晋三元首相が還流をやめるといったんは決めたという。にもかかわらず、死去後に復活したいきさつも明らかにする必要がある。

 自民党はアンケートとは別に聞き取り調査結果をまとめている。安倍派の不記載が20年以上前から行われていた可能性に言及したものの、開始時期は特定できなかった。使途には懇親費用や車両購入代など15項目を列挙したのにとどまった。これでは「選挙対策で配った裏金の原資になった」との疑いは晴れまい。

 「経理や会計業務は一切関知していなかった」。松野氏は記者会見で事務総長時代を振り返り、そう述べた。松野氏は高木氏らとともに安倍派の実力者「5人組」に名を連ねてきた。そのメンバーの一人で参院でも開催見込みの政倫審で出席が想定される世耕弘成参院幹事長は「政治資金の管理を秘書に任せきりにしていた」と語る。

 政倫審でも同様の発言を繰り返すようでは、国会自体を軽んじていると受け止められよう。松野氏らは、資金還流の経緯を安倍派の前身の派閥で会長を務めた森喜朗元首相らに問いただすなり、資金の使途を詳細に調べるなりして政倫審で説明すべきだ。

 自民党側は政倫審の非公開を求めているが、それでは説明責任を果たせず、国会の存在意義に疑問符が付きかねない。

 岸田文雄首相は裏金事件に対し「説明責任のありようを踏まえ、政治責任や処分を考えていく」と表明している。政倫審で国民の納得が得られないと判断したなら、政治への信頼回復のために首相の覚悟を実行しなくてはならない。