株価史上最高値 (2024年2月24日『北海道新聞』)

株価史上最高値 家計に恩恵及ぶ政策を(2024年2月24日『北海道新聞』』-「社説」)

 

 日経平均株価が1989年12月の史上最高値を更新した。
 米国市場の活況と海外投資家の積極的な買いで、半導体関連の銘柄が値上がりしている。景気の先行きが不透明な中国を敬遠した資金が流入している面もあろう。
 新たな少額投資非課税制度(NISA)の開始で投資を始める人も増えている。恩恵を受けた投資家の消費増が期待される。
 企業は株高をてこに合併・買収(M&A)や事業拡大を進め、賃上げや中小企業との取引条件改善につなげてもらいたい。
 株高傾向が続けば、投資余力がある人とない人との間で、さらなる格差拡大が懸念される。
 岸田文雄首相は、就任前に一時掲げた金融所得課税の強化を実行する好機ではないか。歴史的な株高を、分配の強化と経済の底下げに生かすべきである。
 年明けからの上昇幅は5千円超とあまりに急ピッチだ。
 一方、足元では国内総生産(GDP)が実質で2四半期連続のマイナス成長となっている。
 実質賃金は昨年12月まで21カ月連続で前年を下回り、家計には物価高が重くのしかかっている。
 89年はバブル期だったが、給与は増え、消費も伸びていた。今回は経済や生活の実態と懸け離れた史上最高値だと言うほかない。
 米国では、巨大IT企業や半導体企業が人工知能(AI)関連の技術を通じた製品やサービスを生み出し、業績を伸ばしている。
 日本企業は円安の恩恵による好業績が目立つが、新たな技術革新を実現したとは聞かない。
 海外マネーの動き次第で相場が大きく変動するリスクに警戒していくことが欠かせまい。
 投資家の間には、日本経済が30年あまり続いた停滞とデフレから脱却するとの期待感があり、株高はその象徴との見方がある。
 国内企業の現預金は300兆円を超える。株価対策の自社株買いではなく、人材への投資に回し、脱却を現実化する必要がある。政府も政策で強く促すべきだ。
 日本では長年、株式投資が広がらない一因に、証券会社に対する不信感が挙げられてきた。
 各社は売買手数料の無料化や大幅値下げなど、国民が投資しやすい環境の整備に努めている。
 だが不祥事が絶えない。1月にはSBI証券が新規株式公開を巡って株価を操作したとして、一部の業務停止命令を受けた。
 業界全体で悪弊を絶ち、信頼を回復する機会としてほしい。

 

(2024年2月24日『東奥日報』-「天地人」)

 近ごろ動画投稿サイトで訪日外国人客に日本食を振る舞う動画がはやっている。すしやてんぷら、すき焼きなど王道の日本料理に舌鼓を打ち喜色満面の外国人を見ていると、自分のおごりでもないのに誇らしく感じて妙な気分。

 料理のおいしさはもとより、接客の心配りと行き届いたサービスといった日本流のおもてなしが、訪日客に人気のようだ。観光庁が先月公表した2023年訪日客数はコロナ禍前の8割に回復し、旅行消費額は約5兆3千億円と過去最高に。

 日本の強みといえばかつてはものづくりだった。自動車、バイク、電化製品、半導体などの日本製品が世界を席巻した。低価格で高品質、耐久性の高さが認められ資源の乏しい日本を経済大国に押し上げた。その輝きが影を潜めて久しい。

 23年の名目国内総生産GDP)はドイツに抜かれ世界4位に後退した。ドル換算で比較されるため円安の影響も大きいが、人口が3分の2しかないドイツに追い越された現実は重い。日本経済は30年以上にわたって閉塞(へいそく)感に覆われてきた。

 つける薬はないと思っていただけに株価最高値更新のニュースは驚いた。流行動画のような訪日客需要を見込むサービス業、円安を追い風にした輸出企業が市場の牽引(けんいん)役という。ただ物価高が先行して庶民生活に景気回復の実感は薄い。株高が別世界の幻に終わらなければいい。

 

株価最高値 なぜ国民は実感できないか(2024年2月24日『茨城新聞』-「論説」)

 東京株式市場の日経平均株価(225種)が、バブル経済期につけた史上最高値を上回った。好調な企業業績などが要因という。だが、株高の象徴する好景気を実感している国民がどれだけいるか。生活感覚とかけ離れた株高は、企業優先の政策のゆがみを映す。その点を見過ごしてはならない。

 これまでの終値最高値は1989年末の3万8915円で、その後のバブル崩壊を機に株価は長らく低迷。日銀による2013年の大規模金融緩和などを弾みに上昇基調となり、22日に約34年ぶりに記録を更新した。

 今回の株高は複数の要因を指摘できる。まず新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化だ。

 昨年来、旅行や外食への支出が活発化。関連企業の業績が回復し、好感した買いが入った。今後の焦点は、コロナ自粛からの反動に当たる今の需要の持続性にあろう。

 次に円安だ。インフレ退治へ米欧が金融を引き締める一方で、日銀は緩和を続け、金利差拡大から足元では1ドル=150円近辺へ下落。自動車など輸出企業の利益が膨らみ、株価を押し上げた。ただ為替差益は一時的な面があり、企業の「稼ぐ力」の向上と必ずしも言えない点に注意したい。

 加えて円安でドル換算した株価が割安になり、海外投資家が日本株に手を伸ばしやすくなった点がある。東京証券取引所の働きかけにより企業が自社株買いや配当の株主還元を拡充した動きと相乗効果を生み、海外勢の積極的な買いを呼んだ。株売買の約6割は海外投資家が占め、保有は3割に達する。影響力は大きく、利益確保へ日本株を手放した際などには値下がりが予想される。海外投資家の動向に左右されやすい市場構造を忘れないようにすべきだ。

 ほかの株高要因としては、少額投資非課税制度(NISA)が刷新され個人投資家の資金が市場へ流入した点や、米国経済の堅調、半導体需要への期待が指摘される。しかし肝心なのは、経済活動の実体を伴っているかどうかであろう。

 景気の柱である個人消費を見れば不振は鮮明だ。実質国内総生産(GDP)の消費は、昨年10~12月期まで3四半期連続で前期比減。2%目標を超える物価高でも日銀が緩和をやめない影響などで、インフレに賃上げの追い付かない状態が続くのだから当然だ。GDP全体では景気後退に等しい2期連続減に沈んだ。

 この景気実体とちぐはぐな株高は、手じまいできない大規模緩和と円安をはじめ、多くの原因を政策のゆがみと企業の姿勢に求められよう。

 企業利益や株主還元が拡大してきた背景には法人税減税などの優遇策がある一方で、家計には消費税や社会保障の負担増、そして物価高騰と重荷ばかりのしかかる。

 海外投資家などを恐れて企業が株主還元に前のめりな半面、賃上げには長年後ろ向きだった点も忘れてはならない。今春闘では従来以上の賃上げとして還元を求めたい。

 日銀は緩和策として大量の株を事実上買ってきたため、日本の株価は「げた」をはいているのが実態だ。市場の正常化へ動く機会は、株高の今を置いてほかにあるまい。

 株価高騰に反比例するように岸田政権の支持率は低迷する。政治資金問題だけでなく、国民生活の痛みへの無頓着が根底にあると知るべきだ。

 

40年史観では(2024年2月24日『高知新聞』-「小社会」)

 作家の故半藤一利さんは、精通する日本の近現代史をよく「40年史観」で語っていた。40年周期で大きな転機が来るというもので、歴史の流れが分かりやすく整理されていた。

 日本は、幕府に続き朝廷も開国に転じた幕末1865年を起点に、明治維新を経て新しい国づくりを進めた。40年後の1905年、日露戦争に勝ち、ついに強国入りの栄華を手にする。ところが自信過剰に陥ったのだろう。次第に転落していく。

 その結末は45年の敗戦。おびただしい命を犠牲にした悲劇だった。戦後の独立国家としての歩みは、占領期間が明けた52年から。今度は経済大国へとのし上がっていくのだが。

 「おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」。平家物語はうまく表現したものだ。40年後の92年には、バブル景気に沸いた日本がまたもや没落の道に入る。

 それからはや30年余り。一昨日、日経平均株価がバブル期の89年末に付けた史上最高値を超え、大ニュースとして駆け巡った。もっとも国民生活は物価高にあえぎ、人口減少も深刻だ。先行きは暗く、バブル期のような高揚感はないに等しい。

 半藤さんは生前、日本を憂えていた。バブル崩壊の後も「私たちがみたのは、政・官・財のまったくの無責任でした」と(著書「昭和史―戦後篇」)。40年史観では次の転機は8年後の2032年。栄華到来のはずだが、現状には「まさか…」と不安がよぎる。