米作家、チャンドラーのハードボイルド小説の名作『さらば愛し…(2024年2月26日『東京新聞』ー「筆洗』)

 米作家、チャンドラーのハードボイルド小説の名作『さらば愛しき女よ』。原書の中にこんな表現があった。「high pillow」

▼直訳すれば、高い枕。うん?となる。探偵マーロウと警部補の宝石強盗団をめぐる会話の中に出てくる

村上春樹さんの翻訳による『さよなら、愛しい人』(早川書房)で確認する。「どっかのちんぴらが、黒幕のために罪をかぶらされたんだ」。なるほど、「黒幕」の意味なのか。日本で高い枕といえば、昔の殿様や武士を連想するが、あちらの国では高い枕ですやすやと眠るのは権力を握ったボスや黒幕のイメージがありそうだ

▼マーロウではなく、高い枕がどうやら脳卒中の「黒幕」の1人らしいとつきとめたのは国立循環器病研究センターのグループである。発表によると高すぎる枕が脳卒中の一因となる「特発性椎骨動脈解離」を発症させるリスクがあるそうだ

▼グループでは「殿様枕症候群」(ショーグン・ピロー・シンドローム)と呼び、適切な枕を選ぶよう提唱している。高く硬い枕が首への圧力を高め、首の後ろの血管を傷めてしまうらしい。何の心配もなく眠る「枕を高くして寝る」とは正反対の話である

▼グループによると頭をのせない状態で12センチ以上の枕は「高い」そうだ。寝っ転がってスマートフォンをいじるには高い枕は具合がいいが、「黒幕」とは手を切りたい。

 

【動画で見る】高い枕で寝ると脳卒中リスクが…「殿様枕症候群」に注意 目安は高さ12センチ 首の後ろの血管が裂ける恐れ