口唇口蓋裂 治療は続いても支援「18歳打ち切り」が変わる? 厚労省が年齢延長を検討 他の疾病も調査(2024年2月26日『東京新聞』)

 生まれつき上唇(くちびる)や上顎(あご)が裂けている「口唇口蓋裂」患者の多くが、治療継続中でも18歳以降は医療費支援が打ち切られる問題を巡り、厚生労働省が支援の対象年齢を引き上げる検討を始めたことが分かった。同省は、他にも18歳以降の医療費支援が打ち切られる疾病があるかどうかの調査に乗り出し、口唇口蓋裂とともに支援延長の対象に加えることを目指す。(山口哲人)

 口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ) 胎内での成長がうまくいかず、上唇が裂けて生まれるのが口唇裂、口の中の上部に穴があり、鼻までつながっているのが口蓋裂。併発することも多い。遺伝的な要因などが指摘されるが、原因ははっきりと分かっていない先天性疾患。約500人に1人の割合で生まれ、「奇形」の疾患の中では最も多いとされる。昔は「兎唇(としん)」「三つ口(みつくち)」と差別されたが、現代では医療技術が確立し、適切な治療で完治が見込めるようになった。

 口唇口蓋裂患者に対する医療費助成の拡充を目指す与党有志による議員連盟の会合で、同省の担当者が「実態調査を踏まえ、政府として必要な対応を行う」と説明した。
 同省は2023年度、口唇口蓋裂治療の実態調査を始めている。24年度は公平性の観点から、それ以外の疾病にも調査対象を広げ、支援の対象年齢を何歳まで延長するのが適切か判断する。
 口唇口蓋裂の治療費は現在、公的医療保険で7割がカバーされる。17歳までは残り3割についても、障害者総合支援法に基づく自立支援医療制度や、自治体による子ども医療費助成があり、自己負担額が軽減されている。
 ただ、同法は17歳までの「障害児」が支援対象となっている。口唇口蓋裂の患者も18歳からの医療費負担を抑えるには、身体障害者手帳を取得しなければならない。患者の中には手帳の交付を受けることに心理的な抵抗があったり、手帳取得に必要な診断書などを作成できる専門医を探すのが難しかったりするため、多くは手帳の取得を諦めざるを得ないのが実情だ。
 この病気の特徴は、上顎が十分に発達せず、下顎が前に出る「受け口」になりやすいことだ。このため、18歳前後に下顎の成長が止まったのを見極めてから下顎の骨を切除し、術後矯正へと進めて治療を終えるのが一般的となっている。
 自立支援医療制度が治療の実態に即しておらず、18歳からは治療費が年数十万円にも跳ね上がるため、治療の継続に二の足を踏む患者もいる。患者や家族らでつくる「口唇・口蓋裂友の会」は、「せめてあと2年だけでも延長してもらえれば、助かる患者がたくさんいる」と対象年齢の引き上げを訴えている。

◆治療実態と支援の「はざま」解消へ一歩

 厚生労働省口唇口蓋裂などの患者に対する医療費支援の対象年齢引き上げに向けた調査を始めることは、治療実態と支援制度の「はざま」の解消に向けた大きな一歩だ。
 口唇口蓋裂の治療は、生後数カ月で裂けた上唇を閉じる手術、1〜2歳で口腔(こうくう)内の上顎の割れ目をふさぐ手術を施すが、これは長い道のりの入り口にすぎない。その後も成長に伴ってゆがみが生じる上唇の修正手術、歯科矯正、自身の腰骨を割れた歯茎に移植する手術など、乳幼児から大人になるまで継続的な治療が待ち受ける。
 患者や家族の心身には大きな負担がのしかかる。それでも、患者が治療に立ち向かうのは、必ず治る病気だからだ。自立支援医療制度は経済的に大きな後押しとなっているのに、多くは18歳から支援が途切れる。18歳を迎える高校3年生は進学や就職を控え、手術の時間を取ることが難しいタイミングだ。手術に適した時期が身体的に18歳以降という患者もいる。
 何歳まで医療費支援の対象年齢が引き上げられるのか、口唇口蓋裂以外のどのような疾病が対象となるのかの検討はこれからだ。より多くの患者が治療を終える時期を柔軟に選べるような制度改正が望まれる。