能登地震(2024年2月15日)

住宅の耐震化 命守る改修工事進めよ(2024年2月15日『秋田魁新報』-「社説」)

 最大震度7を記録した能登半島地震では石川県内の住宅の全半壊、一部破損が現時点で6万5千棟に上る。住宅の倒壊が人的被害を拡大させた大きな要因となっており、命を守るための耐震化を進めることが喫緊の課題となっている。

 死者は240人を超えた。1月30日時点の調べで最も多かった死因は、倒壊家屋の下敷きになったことなどによる「圧死」で41%だった。改めて耐震化の重要性を感じさせる。

 建築基準法は1981年に厳格化され、震度6強以上の地震でも倒壊しないという新基準が設けられた。それ以前に建てられた古い住宅は、震度5強程度ではほとんど損傷しないとする旧基準となっており、耐震性に差がある。

 旧基準の住宅でも耐震改修工事で強度を確保できるが、住宅の耐震化率は珠洲市で51%(2018年度)、輪島市で45%(19年度)にとどまる。同時期の全国平均87%を大きく下回っている。

 両市の被害は大きい。低い耐震化率が、多くの住宅の倒壊を招いた可能性が指摘されていることは見逃せない。

 本県の耐震化率は20年度末で85%近くに達している。ただ、能登と同様に半島を抱える男鹿市では推計で64%など、市町村でばらつきがある。

 県の地震被害想定調査では、人的被害の要因として建物の倒壊によるものが大半を占める恐れがあるとされている。耐震化の一層の促進は本県でも重要な課題といえる。

 日本建築防災協会などによると、耐震改修工事にかかる費用は150平方メートルほどの2階建てで築年数などにより140万から210万円が相場という。補助制度を設けている自治体もあるが、費用に対する負担感の大きさが、なかなか工事に踏み切れない理由の一つになっている面は否めない。

 1995年の阪神大震災で住宅の倒壊などによる圧死が目立ち、耐震化の必要性が叫ばれた。2016年の熊本地震でも犠牲者の多くが圧死だった。今回も同じような事態が繰り返されたことはあまりに残念だ。

 新基準が設けられてから既に40年以上たつ。旧基準で建てられた住宅の耐震化について、国の取り組みは十分だったといえるだろうか。

 国には自治体と連携して補助制度の拡充などを進めるとともに、耐震化の必要性や工法についての周知を図り、着実に住宅の耐震化を進めていくことが求められよう。対策を急がなくては同様の悲劇が繰り返されかねない。

 能登半島地震では、大きな揺れが20秒以上続いた場所もあった。尋常でない揺れといえるが、耐震化で救えた命もあったはずだ。国は被災地支援に力を注ぎつつ、住宅の安全性向上という長期的な防災の推進に努めなくてはならない。

ーーーーーーーーーーーーー

能登インフラ復旧 加速のため工夫が必要(2024年2月15日『茨城新聞』-「論説」)

 能登半島地震が起きて6週間が過ぎた。道路の緊急復旧は進むが、断水の解消には時間がかかっている。被災地のホテルなどの営業もままならず、土木作業員やボランティアの多くは金沢市から車で通わざるを得ない。復旧・復興を加速させるには事前の備えも含めもっと工夫が必要だ。

 一方向からしか道路がない半島では、土砂崩れで使えなくなれば孤立する地域が生まれやすい。同じ震度7でも阪神大震災熊本地震の被災地とは違う。こういった事態は予想できたはずだ。

 南海トラフ巨大地震で想定される被災地などでは、道路の緊急復旧計画が策定されている。がけ崩れの土砂や倒れてきた建物を道路から除き、救助・救援を外から入れるため、どの道路から優先して通行可能にするかを定めている。

 災害が起きれば国、地元自治体、高速道路会社が被害状況を点検して対応する仕組み。半島の孤立しやすさを考慮すれば、能登でも計画を策定しておくべきだった。

 孤立集落はなくなったが、道路の亀裂やがけ崩れによる通行止め区間の多さから時間がかかっている。片側通行など暫定的な復旧のため被災地へ行くのに時間がかかり、十分な作業の時間を確保できないのがネックと指摘できる。

 これを改善するには、道路や水道の復旧に当たる作業員などが宿泊し資材も保管できる拠点を、石川県七尾市輪島市に早急に設けるべきだ。時間のロスが減り仕事の効率が上がるはずである。

 事前の備えとしては、拠点の設置場所を選定しておく必要がある。重機が使える建設会社を地域ごとに配置することも重要だ。普段は道路の維持管理の仕事をし、災害時には各地域で緊急復旧に取りかかる。不通区間を双方向から工事すれば復旧が早まると言える。

 水道は今も輪島市珠洲市のほぼ全域など約3万戸が断水の状況だ。多くの地域で仮復旧には2月末から3月末までかかる見通し。人手と時間がかかる工事で、外部からのさらなる支援を求めたい。

 大地震が想定される地域を中心に水道の耐震化が行われている。人口減少に対応した効率化を理由として広域化も進む。だが、能登のような地震規模では被害は免れない。広域化に伴い被害は広範囲に及び、復旧に時間がかかる恐れが強い。

 断水を短期間で終わらせるには、基幹となる管路の耐震改修を進めて壊れにくくするのが基本だ。同時に、避難所や、災害時の役割が大きな病院、復旧拠点、避難者に開放するホテルなどについては、普段から井戸の併用を促すよう提案する。

 阪神大震災の被災地では街の中にせせらぎを造った。断水しても生活用水を確保するためだ。断水の影響を考えれば、給水支援に頼らず、井戸や河川を使って災害時に水を確保する政策を自治体は進めるべきである。

 石川県では約7万棟の建物が被害を受けた。県は全半壊した住宅のがれきなど災害廃棄物は約240万トン、年間ごみ7年分に相当すると推計する。2025年度末までの処理完了が基本方針だ。

 目の前からがれきがなくなれば、復興への弾みとなる。事業者による解体を急がなければならない。地元の焼却施設だけでは処理に時間がかかる。近隣県には積極的な受け入れを期待する。