コロナ禍が明けて人の流れが戻るとともに、犯罪も増えてきた。SNSを悪用した匿名性の高い事件が目立っている。摘発を一層強化し、治安の悪化を食い止めねばならない。
警察庁によると、昨年発生した刑法犯の件数は、前年より17%増えて約70万件に上った。刑法犯はここ20年ほど減少が続いていたが、一昨年に増加に転じ、昨年はさらに10万件も増えた。
ひったくりなどの街頭犯罪が大きく増えたことが要因だ。このほか、振り込め詐欺などの特殊詐欺も、ここ10年間で最多の1万9000件を記録した。
こうした状況を反映して、国民の「体感治安」も悪化している。昔に比べて治安が悪くなったと感じている人は7割に上った。
首相や元首相が公衆の面前で襲われるという衝撃的な事件が続いたことに加え、「闇バイト」による強盗事件が多発したことなども影響したのだろう。
闇バイトは、SNSでメンバーを募り、犯罪を実行させる。組織の実態が見えにくく、摘発は容易ではない。国民が不安を感じるのも無理はない。
安全な日常が脅かされる状況は看過できない。こうした犯罪をいかに阻止するかが問われる。
類似の犯罪を防ぐには、まずは確実に容疑者を摘発する必要がある。犯行に使われたSNSメッセージの復元など、デジタル解析技術を高めることが重要だ。
犯罪グループが拠点を海外に置くケースも目立つ。海外の捜査機関とも連携し、犯罪グループの首謀者逮捕につなげてほしい。
闇バイトには、手っ取り早く高額な報酬を得たいと考える若者らが応募している。お金のためには他人を傷つけても構わないという身勝手な発想が透けて見える。
犯行に加担した若者らは、多くが報酬を受け取れずに、逮捕されている。犯罪グループにとっては「捨て駒」にすぎない。
コロナ禍もあって、人間関係が希薄になっている。簡単に大金を稼げる方法などないことや、堅実に働くことの大切さを、周囲が教えなければならない。
本来は家庭の役目だろうが、それが難しいのであれば、行政や教育現場で担うほかあるまい。同年代で気軽に話せる場所や、若者が困った時に相談に応じる窓口の設置なども進めてもらいたい。
若者の貧困対策や、非正規雇用で働く人たちの待遇改善も欠かせない。若い世代が安心して暮らせる環境を整えることが大切だ。