最大の脅威は「ウクライナ戦争ではなく中国」 トランプ陣営のシンクタンクが提言書出版へ(2024年5月4日『産経新聞』)

 

トランプ前米大統領(ゲッティ=共同)

【ワシントン=渡辺浩生】11月の米大統領選で共和党の指名が確実になったトランプ前大統領陣営のシンクタンク「米国第一政策研究所(AFPI)」が、安全保障政策の提言書を近く出版する。

本紙が入手した同書「米国第一の米安全保障政策」では、中国やロシア、イランなど敵対勢力の抑止に失敗したとバイデン政権の政策を批判。中国を最大の脅威とし、軍事力強化を通じた「力による平和」の安保構想を論じている。トランプ氏が再選された場合の安保政策を占うものとして注目されそうだ。

執筆陣は、トランプ前政権で大統領副補佐官を務めたフライツAFPI外交政策担当代表や、ペンス前副大統領の補佐官を務めたケロッグ退役陸軍中将、ライトハイザー元米通商代表、オルタガス元国務省報道官ら。フライツ氏やケロッグ氏らはトランプ氏と政策協議を重ねており、トランプ氏本人の方針を反映したものといえる。

同書ではまず、「支配者層より米国民の利益を優先させるトランプ政権の統治アプローチ」とする米国第一政策のもと、前政権下の米国には「平和のときがもたらされ、20年間で初めて海外の新たな戦争に参戦しなかった」と指摘する。

だが、バイデン政権が同アプローチを覆した結果、「バイデン大統領の不適格な指導力も加わって米国と世界の安全は悲惨な状況に陥っている」と批判。アフガニスタンからの米軍撤退が敵対勢力に「米国の弱さ」をみせ、以後のロシアのウクライナ侵略、中国の台湾への威圧や北朝鮮の核・ミサイル開発の加速、中東でのイランや親イラン勢力の攻勢など「世界は疑いなくトランプ氏が退いたときより不安定で危険になった」とする。

さらに現政権が国防費を事実上削減して防衛基盤に十分な投資を怠り、中国などへの抑止力は低下したと指摘。11月の大統領選は「バイデン氏の失敗した政策か、成功した実績のあるトランプ氏の米国第一政策か」を選択する「歴史的分岐点」とした。

米国第一政策は「孤立主義」だとの批判に対しては、「自由世界の指導者から後退するものではない」と反論する。北大西洋条約機構NATO)など同盟諸国と密接に協力する一方で、「同盟諸国が相互防衛に応分の費用を負担することが不可欠」だと強調。米国益の促進を前提とした強固な同盟関係は「敵対勢力に勝る最大の比較優位」と訴える。

同書は、ウクライナ戦争に関し停戦や和平交渉を含む「新たなアプローチと包括的な戦略が必要」と指摘。戦争の長期化は、「枢軸」化した中露、イラン、北朝鮮の連携を一段と強めるリスクがあると警告する。

また、「米国の安全保障の最大の脅威はウクライナ戦争ではなく中国だ」と断言。特に台湾に対しては中国による侵略の防衛に不可欠な兵器や訓練の確保など、台湾関係法に基づいた関与の重要性を強調する。

「台湾有事に関しわれわれの最重要パートナー」とする日本に対し、「自衛隊再軍備」に加え、東・南シナ海での中国の台頭に対抗するため他の同盟諸国への強固な支援を求めている。

米国では、トランプ氏の再選を想定し、保守系有識者や前政権高官らによる〝トランプ2・0〟の政策提言が相次ぐ。共和党の新外交政策構想をまとめた新著「ウィー・ウィン ゼイ・ルーズ」も、「力による平和」で中国との新冷戦勝利を唱え、注目を集めた。同書の共同著者で、国際政治学者のマシュー・クローニグ氏は「将来の共和党政権の国家安保戦略の原案になれば」と話している。