最悪の特殊詐欺 捜査突きあげ「上」を割れ(2024年2月15日『産経新聞』-「論説」)

 
住人の女性が死亡した事件現場の住宅。その後、事件は急展開した=1月、狛江市(寺河内美奈撮影)

「ルフィ」など匿名で、5都府県8件の強盗事件を指示した容疑者が、警視庁の捜査で全て立件された。フィリピンからスマートフォンを使い、匿名に隠れて犯行を指示した卑劣な凶悪犯たちだ。

犯人たちは秘匿性の高い通信アプリでやりとりしていたため、立件が困難視されていた。だが捜査陣は通信内容を復元し、全事件で「ルフィ」ら指示役を起訴した。粘り強い捜査を評価したい

ただ、解明に至っていない重要部分も残っている。指示犯らが被害者の資産情報をどこから得たか―という情報経路だ。

この事件は、自宅など手元に資産のある対象を狙い、特殊詐欺が、奪取効率のより高い強盗犯に変貌したところに強い衝撃があった。なぜその被害者が狙われたのか、個人情報がなぜ犯人に流れたのか。体感治安にかかわる核心部分だが、いまだ解明できていない。

もう一つは上部組織の解明、すなわち突き上げ捜査だ。ルフィを名乗る指示犯に、弁護士が接見中にフィリピンの「JPドラゴン」なる日本人犯罪組織と電話させたことが発覚した。JPドラゴンはフィリピンで「ルフィ」グループの面倒をみた上部団体とされ、電話は口止めを図ったものとみられる。

「ルフィ」らの「上」は長く不明だったが、ついに尻尾を出したのだ。警視庁とは別に、JPドラゴンのメンバーが絡む特殊詐欺を捜査中の警察本部もあり、4月から本格運用が始まる全国警察の連合捜査班を機能させて突き上げを期待したい。

この間の日本警察の努力は東南アジア諸国の当局との協力関係を厚くし、同地域を拠点にする日本人特殊詐欺グループの相次ぐ摘発を実現した。

警察庁集計で、昨年の特殊詐欺は直近10年間で最悪の約1万9千件、被害は前年比19%増の約440億円となった。事態は深刻だ。猛威を振るう特殊詐欺をどう制圧するか。解は「摘発と壊滅しかない」のである。

グリコ・森永事件の影響でかつて企業恐喝が猖獗(しょうけつ)を極め、社会問題化した。鎮圧させたのは警察の検挙に次ぐ検挙だった。「検挙に勝る防犯なし」は今も生きているのだ。

特殊詐欺捜査には検挙と突き上げの双方が必要だ。己の手を汚さず実行犯を使い捨てる指示犯や黒幕を追いつめたい。