特殊詐欺の撲滅を総力戦で(2024年2月16日『日本経済新聞』-「社説」)

 
 
警察はイベントなどを通じて特殊詐欺の被害防止を呼びかけている(13日、東京駅)=共同

 治安悪化への懸念が高まっている。警察庁によると、2023年の刑法犯認知件数は2年連続で増加し、70万件を上回った。新型コロナウイルスの行動制限解除で人の動きが活発になった影響とみられ、憂慮すべき状況だ。

 深刻なのが特殊詐欺である。被害額は2年連続で増え、約441億円(暫定値)に達した。400億円を超えるのは7年ぶりだという。被害者の多くは高齢者だ。大切な老後資金が奪われ、反社会的組織の資金源になっている。官民挙げた対策を急がねばならない。

 古典的な「オレオレ詐欺」に加え、有料サイトの未払い料金名目で金銭を請求したり、「口座が不正に使われている」と言ってキャッシュカードをだまし取ったりする例もある。手口は多様化、巧妙化している。

 警察当局や行政による啓発とともに、金融機関やコンビニエンスストアでの声かけなど多面的な対策をさらに進めたい。

 携帯電話が悪用されるのを防ぐため、国は契約時の本人確認の徹底などを検討している。効果的な対策を急いでほしい。

 犯行グループはSNS(交流サイト)や闇サイトで末端の実行役を募り、集合離散を繰り返している。警察当局が「匿名・流動型グループ」と呼ぶこうした集団を壊滅させるためには、実行役の摘発だけでは足りない。指示役ら上層部に迫る捜査がカギを握る。

 国境を越えた詐欺が増えている。このため昨年12月の主要7カ国(G7)の内務・安全担当相会合では、被害防止の啓発活動や摘発での連携強化をめざす共同声明が採択された。グループが拠点を構えるケースが多い東南アジア諸国を含め、国際的な包囲網を構築することが求められる。

 警察庁のアンケートでは、ここ10年で日本の治安が「悪くなった」「どちらかと言えば悪くなった」との回答が7割を超えた。国民の不安が高まり、治安の根幹が揺らいでいる。これ以上の被害拡大を総力戦で防がねばならない。