ピケティの指摘「貧困層を目の敵にするイデオロギーが公共サービスを劣化させている」(2024年2月24日)

状況が悪化したのはサルコジ政権以降

問題は、政権がこれらの金庫に圧力をかけ続け、運営コストをさらに切り詰めようとしてきたことだ。とくに2007年にニコラ・サルコジが大統領になってから状況が悪化した。サルコジは、社会保障制度を悪用して各種手当を不正に受給する詐欺を容赦なく取り締まらなければならないことを前面に押し出したのだ。

各種調査によって脱税やホワイトカラーの課税逃れのほうが、金額が大きいことはわかっているのに、そのことはお構いなしだった。富裕層を狙い撃ちにすると、面倒が生じる可能性もあるので、貧乏人を懲らしめてやろうとなったわけだ。

2017年にマクロンが大統領になると、この傾向に拍車がかかった。富豪たちが「ザイルパーティーの先頭を行く人たち」として崇拝される一方で、貧しい人たちはスティグマを負わされた(マクロンの発言では、貧しい人たちが仕事を探していると言っているわりには、「道路を渡る」ことすらしていないということになっていた。貧困層のために「バカバカしいほどの金額」がコストになっているという非難も定期的に浮上するようになった)。

家族手当金庫は、人員とリソースが少ないにもかかわらず、社会保障制度を悪用した詐欺を取り締まり、その結果を数値として出すことを求められていた。そのせいでアルゴリズムを使った逸脱行動が始まり、その実態がジャーナリストたちによって白日のもとにさらされたわけだ。

最悪なのは、貧しい人を目の敵にするこのイデオロギーのせいで、公共サービス全般の質の劣化が起きていることだ。そのことに気づいていない人がいるなら、身近な人に尋ねてみるといい。家族手当金庫に問い合わせをしても、機械から返信があり、いまは3ヵ月前に受け付けた問い合わせに応対しているので、回答に時間がかかると告げられる始末だ。そんな状況が数年前から続いている(なお、半年前の問い合わせの回答がいまだに届いていない)。

一方、家族手当金庫から過払いしていた金額が判明したので返還してほしいと言われたら、その要求がまったく理にかなっていないこともしばしばあるのに、問答無用ですぐに支払わなければならない。その金額を支払える人なら、この理不尽な話はつらいものだが、乗りきれるだろう。だが、ギリギリの生活をしている人にとって、これはとても我慢できるものではない。

いずれにせよ、家族手当金庫の人員とリソースは不足しており、良質なサービスを提供し、利用者に適切に応対できる状況ではない。これは関係者全員にとって、きわめてつらい状況だ。

貧しい人に怒りをぶつけても無意味

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