子ども支援金 詭弁やめ真摯に説明を(2024年4月20日『北海道新聞』-「社説」)

 少子化対策関連法案がきのう、衆院を通過した。
 児童手当拡充などの財源となる「子ども・子育て支援金」創設が最大の焦点だ。医療保険料に上乗せして徴収されるが、政府は「実質的負担は生じない」と繰り返すばかりで全体像は依然見えない。
 それでも制度化を急ぐ姿勢は極めて不誠実だ。少子化対策は全世代の合意形成がなければ実現しない。そのために必要な負担のあり方を真摯(しんし)に説明する必要がある。
 少子化対策の予算規模として、政府は2028年度までに3兆6千億円を見込む。支援金は財源の一つで1兆円を確保する方針だ。
 政府は2月、保険の加入者全体で割った1人当たりの徴収額が「月500円弱」と公表した。
 加入者には保険料を払わない子どもも含まれ、負担を示す目安にならないなどの批判が集中した。
 これに対し政府は3月に医療保険の種類ごとの試算額を、4月には会社員らが入る被用者保険の年収別試算を示すなど、小出しの説明を繰り返してきた。
 この中で年収600万円の会社員らの場合、「500円弱」を上回る千円になるなどと明らかにした。ただ仕組みの複雑さもあって理解は深まっていない。
 「実質負担ゼロ」の主張は曲げない。社会保障の歳出改革を進め、賃上げで所得が増せば保険料の軽減効果が生じ、その範囲内で支援金を確保するという理屈だ。
 しかし個人単位で見れば、賃上げが不十分などの理由で軽減効果が得られない人は出てくる。そうでなくても物価高は続き、実質賃金は低迷している。
 人々の生活実態を直視せねば、主張も詭弁(きべん)にしか聞こえまい。
 そもそも医療保険は負担と受益の関係が明確な制度だ。目的外の少子化対策の費用を求めることは筋が通らない。会社員ら現役世代に負担が集中することも問題だ。財源の再検討も必要ではないか。
 政府が負担に関する詳しい説明を避けた結果、肝心の少子化対策の内容の議論が不十分となった。
 このうち、親が未就労でも保育所を利用できる「こども誰でも通園制度」は一部の施設で試行が始まった。保育士不足はすでに深刻で、試行の現場では人材確保策などの課題を指摘する声が上がる。
 政府が掲げる施策は子育て世帯向けが中心だが、少子化の最大の要因は経済的事情で結婚や出産をためらう若者の増加にある。
 参院ではこうした課題にも向き合い、議論を深めてもらいたい。