家族手当、誰のため? 「未婚で家族養っている人は対象外」とされた福岡市の女性団体職員の不満(2024年5月9日『西日本新聞』)
 
勤務先の支給基準は「既婚の世帯主」
 
キャプチャ
未婚のため、家族手当が不支給となっている女性2人。「月1万円あると、いいですよね…」と口をそろえた
 
 配偶者や子どもを養う従業員に支給される「家族手当」を巡り、福岡市内の団体職員の女性が労働組合にこんな不満を寄せた。勤務先の支給基準は「既婚の世帯主」となっており、女性職員は全て未婚のため、家族を養っていても対象外になってしまう-。労働関連法は、性別を理由とする差別的な取り扱いを禁じている。女性のサポートを続ける労組は「事実上、男性のみに支払う不当な性差別のルールだ」と指摘する。 (編集委員・河野賢治)
 「家族を養うのに、結婚しているかどうかは関係ないと思うんですが…」
 女性職員の一人、鈴木香さん(50代、仮名)は声を落とす。80代の母と2人で暮らし、身の回りの世話をしている。
 勤務先は特定業種でつくる組合団体。職員は既婚の男性3人と、鈴木さんを含む独身女性2人だ。月1万円の家族手当は、役員のため対象から外れる男性1人を除き、男性2人にだけ給付されている。
 鈴木さんは母を養い、所得税の支払いで扶養控除を受けている。世帯主に当たると思っても、未婚のため家族手当はもらえない。
 もう一人の女性職員、田中美代さん(50代、仮名)も、家族手当を受け取っていない。派遣社員の姉と2人暮らし。収入は田中さんの方が多く、世帯主とも取れるが、独身のため除外されている。「女性を狙い撃ちにしているようで、変だと思います」
 家族手当は扶養手当とも呼ばれ、家族を養う従業員の家計を支援する目的がある。労働基準法上の支払い義務はなく、支給条件や金額は雇い主が決めることが多い。
 組合団体によると、2014年3月までは結婚を問わない規定だった。所得税納税で扶養控除の対象となる、年収103万円以下の家族を養っていること-が条件。配偶者や19歳未満の子ども、60歳以上の父母などを養う職員に出していたが、20年度から今のルールになった。変更の経緯や理由は担当者が交代したため分からないという。
 女性から相談を受けた労組「連合福岡ユニオン」は昨年4月、今の基準では男性のみが恩恵を受けるとして、改善を要求。既婚で世帯主なら、家族が経済的に自立していても支払われ、不公平と指摘した。性別を理由とした差別的な取り扱いを禁じる男女雇用機会均等法や、労基法の趣旨に反するとし、寺山早苗書記長は「家族手当は誰のための、何のためのものか。本来の趣旨を考えてほしい」と訴える。
 これに対し、組合団体側は違法性を否定。同年6月には、労基法が禁じるのは女性であることを理由にした賃金差別であり、今回のケースはこれに当たらないと主張した。基準は「女性に支給しない」とはなっておらず、既婚者が男性だけなのも偶然-としている。
 労働問題に詳しい西野裕貴弁護士(福岡県弁護士会)は「基準は一見すると性別に中立的な内容のようだが、実際の運用では男女で支給に差が出ている。公序良俗に反すると見られても仕方がない」と話す。
 家族手当を巡るユニオンと組合団体の交渉は、開始から1年が過ぎた今なお続いている。女性2人は20年近く勤め、月給は手取り18万円台。物価上昇もあり生活は厳しい。
 2人は嘆く。「同じ職場なのに女性だけ除外されて、透明人間になったような気持ちです」
 組合団体の担当者は、本紙の取材に「社会保険労務士や弁護士と連携して現在、規定の改定を進めている。結婚の状況や世帯主かどうかを問わず、全ての職員が納得する形にしたい」と答えた。
男女雇用機会均等法違反の是正指導、5217件 22年度の厚労省調査
 厚生労働省によると、2022年度に男女雇用機会均等法違反を確認したのは2222事業所で、是正指導は5217件に上っている。法律では、労働者の配置や金銭給付を含む福利厚生などについて、性別を理由に差別的な取り扱いをしないよう義務付けており、関連の指導が7件あった。
 是正指導で最も多かったのは、妊娠・出産を巡るハラスメントの対応に関する内容で1439件。セクハラ相談についてが1243件で続いた。従業員の配置や、金銭給付を含む福利厚生などについての指導は20年度が7件、21年度は9件だった。
 同法に関して全国の労働局に寄せられた相談は20~22年度、年度ごとに2万967件~2万5109件。内容別に見ると、22年度はセクハラが6849件で最も多く、妊娠中と出産後の健康管理に関する相談が4863件で続いた。
【ワードBOX】性別を理由とする差別的な取り扱いの禁止
 男女雇用機会均等法と施行規則は事業主に対し、労働者の性別を理由として、定期的に金銭を給付する福利厚生で差別的な取り扱いをしないよう義務付けている。労働基準法にも働き手が女性であることを理由に、賃金で男性との差別を禁じる規定がある。人事院の2023年の「職種別民間給与実態調査」によると、家族手当制度がある企業の割合は75・5%だった。
 
 ◆トーク◆ 原稿を書く途中、多くの人に感想を聞いてみたいと思った。家族手当を巡る今回の記事。雇い主である組合団体の対応に首をかしげたのは、私だけだろうか。
 組合団体は連合福岡ユニオンとの交渉で、労働基準法が禁じるのは、あくまで女性であることを理由にした賃金差別だと主張。支給基準は「女性に支給しない」とはなっていない-などとして違法性を否定した。
 しかし、結果として女性にだけ不利益が生じている点をどう見るか。男女雇用機会均等法の目的の一つは、男女の待遇を平等にすること。労基法も、条文に書かれた基準を理由として労働条件を切り下げてはならない、とする。今回の事例は、果たして法の趣旨に沿うと言えるだろうか。
 「法律に違反しなければいい」ではなく、その理念に職場環境を近づけ、働きやすくするのが雇い主の仕事では。皆さんどう思います? 
(河野賢治)