能登の学校/子と教員に「心のケア」を(2024年2月21日『神戸新聞』-「社説」)

 能登半島地震で大きな被害を受けた石川県の全ての小中学校が再開して2週間が過ぎた。子どもたちにとって、授業の再開は日常生活を取り戻す大きな一歩である。

 将来への不安や長引く避難生活などによる緊張で、心身がこわばっている子どもは多いはずだ。災害で受けた心的ストレスの影響が長期にわたって残ることは珍しくない。阪神・淡路大震災の被災地でもそうだった。「心のケア」に息長く取り組む必要がある。

 「2月に入って、なかなか眠れない、怖くて落ち着かないといった不調を訴える子どもが増えてきた。しんどくなるのはこれから」。兵庫県教育委員会の震災・学校支援チーム「EARTH(アース)」から珠洲(すず)市に派遣された県立芦屋高校の浅堀裕教諭は話す。阪神・淡路も教員として経験した。


 アースは1月5日の先遣隊派遣を皮切りに、メンバーが交代で珠洲市の小中高校を拠点に学校再開や心のケアなどの支援に当たっている。

 阪神・淡路では、心の健康に教育的配慮が必要な小中学生は地震の3年後にピークとなり、4106人に上った。地震の恐怖は徐々に薄らぐが、家庭の経済事情や友人関係などの変化で心に傷を負うケースが増えたためだ。

 この教訓を踏まえ、東日本大震災の被災地では各自の経年変化を追跡し、教育相談などに生かしている。能登でも、ひとりひとりにきめこまかく目配りする体制を整えたい。

 珠洲市輪島市能登町の3市町では、中学生を遠方に集団避難させる異例の措置が取られた。親と離れて心細い日々を送る生徒は少なくないだろう。残った生徒も、ライフラインが復旧しない中で強いストレスを抱えているに違いない。

 生徒が希望すればいつでも地元に戻れたり、集団避難に加わったりできるよう対応してほしい。集団避難した生徒と地元に残った生徒の学習内容に差が出ないように配慮と工夫が求められる。オンラインを活用するなどして、離れ離れの生徒の交流にも取り組んでもらいたい。

 教職員たちへの手厚い支援も不可欠だ。自身が被災し、避難所の運営に関わりながら、学校再開に向け奔走している例が数多い。疲弊して精神的に不安定な様子の教職員も見られるという。


 文部科学省は、集団避難先のサポートのために全国から教員やスクールカウンセラーらを石川県に派遣している。被災地に残った教員への支援も、同様に充実させるべきだ。


 兵庫県の教育現場には、アースなどの活動報告を広く共有し、防災教育に生かすことが望まれる。