「トイレなきマンション」(2024年2月23日『東奥日報』-「天地人」)

「トイレなきマンション」。日本の原子力政策を評する例えとして長く言われてきたが、今もその現実は変わっていない。原発から出た高レベル放射性廃棄物の最終処分場が決まらないまま原発を使い続けてきた。

 最終処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)は、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で実施した全国初の文献調査の報告書案を国に提示し、両町村とも最終処分の選定事業で次の段階の概要調査に進むことが可能と判断した。ただ、鈴木直道知事は概要調査への移行に反対姿勢を貫く。候補地ゼロの振り出しに戻る公算が大きい。

 国内の各原発で生じた廃棄物は海外でガラス固化体に加工され、六ケ所村に「30~50年間」の約束で一時保管されている。1995年4月に受け入れた初回分は来年で「30年」の期限を迎える。「50年」でも残り21年。NUMOは処分場建設まで約30年間を見込み、約束順守は困難だ。

 経済産業省自民党の作業部会で最終処分事業の現状報告したのを10年前取材した。担当者は「50年の期限までまだ時間がある」と説明。本県国会議員から「50年ありきではない」と一喝され、「できるだけ早く」と慌てて修正していた。

 岸田政権は原発の積極活用にかじを切ったが、最終処分の議論は置き去りにされている気がしてならない。一時保管を引き受ける地元としてはもどかしい。