GDP4位転落(2024年2月22日『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆「生活の質」重視へ転換せよ◆

 内閣府が発表した2023年の名目国内総生産(GDP)は、日本がドイツに抜かれ世界4位に転落した。今なお事実上継続するアベノミクスへの通信簿と受け止めるべきだ。

 日本は米国に次ぐGDP世界2位の座に長くあったが、10年に中国に抜かれ3位に。国際通貨基金IMF)によると4位も盤石でなく、26年にはインドに抜かれ5位へ後退する見通しだ。国際社会、とりわけアジアでの発言力低下は避けられないだろう。

 日独逆転に注目したいのは、その要因や背景からアベノミクスに代表される近年の経済政策の問題点が浮かび上がるからだ。第一に円安である。

 ドイツの名目GDPが昨年伸びた要因は物価高騰にあり、実質成長率は小幅なマイナスだった。にもかかわらず日本が下回ったのは、記録的な円安でドル換算額が目減りしたためだ。

 円の下落に大きな影響を与えたのは日銀による金融政策である。デフレ脱却を掲げて13年に始めた大規模金融緩和は、円安による輸入物価の上昇などに期待した政策であり、今も変わらない。だが円安の恩恵は輸出やインバウンドの関連産業に偏る。一方、物価高を一層深刻にした負の面を国民は感じているはずだ。自国通貨安政策の危うさを改めて気付かせてくれる。

 アベノミクスのもう一つの柱である巨額の財政出動も同様だ。毎年のように補正予算を組んでばらまきを続けてきたが、効果はその時限りだったと言うほかあるまい。金融緩和、財政出動ともに成長力向上の効果は乏しく、過去10年平均の実質成長率は年0・6%。その半面、多大なツケを残した。超低金利の長期化は経済の新陳代謝を停滞させ、予算のばらまきは1千兆円を超える国債残高の山を築いた。

 日独の差は「1人当たり」という別の物差しで見るともっと大きい。経済協力開発機構OECD)加盟国の22年の1人当たり名目GDPは、ドイツが約4万9千ドルで16位に対して、日本は約3万4千ドルで21位。年間労働時間はドイツの1341時間に比べ、日本は2割多い。ベルリンの1人当たり公園面積は東京23区の6倍超だ。

 日独逆転を、個々の「暮らしの質」を重んじる経済運営へ軸足を移す好機と捉えるべきだろう。国民が豊かさを実感できない中での足元の株高も、企業利益優先のわが国のゆがみを映している。低賃金、非正規雇用の増加、税や社会保障負担の不公平、止まらない東京一極集中―。大企業優先でなく、個々の生活を重んじる視点に転じれば、直面する課題に今までと異なる答えが出てこよう。