GDP4位転落 「一過性」では済まされぬ(2024年2月18日『中国新聞』-「社説」)

 経済大国と胸を張れた時代は、もはや昔話なのか。

 2023年の名目国内総生産GDP)が、日本の人口の3分の2に過ぎないドイツに抜かれ、4位に転落した。

 10年に中国に抜かれ、2位から後退して13年。ドイツとは00年に2・5倍もの開きがあったのに逆転され、3年後にはインドにも抜かれる見通しというから残念だ。

 転落の要因は、歴史的円安でドル換算の数値が目減りしたことが大きい。ただ、円ベースでは折からの物価上昇もあり、前年比5・7%増と1991年以来の高い伸びでもある。「一喜一憂しない」という政府の受け止めも、分からなくはない。

 しかし、今の円安は政府が招いたものだ。物価高などの副作用は深刻で「円安による一過性の現象」と強調したところで、市場が円高に戻るとも限らない。岸田文雄首相はもっと真剣に、成長を促す対策に取り組むべきだろう。

 日本は少子化と高齢化で生産人口が今後も減り続ける。その状況下でGDPを増やし、国民生活を豊かにしていくことは並大抵ではない。賃上げと設備投資を積極的に進め、経済の実力を表すともいわれる「潜在成長率」を高めることが不可欠になる。

 安倍政権の轍(てつ)を踏んではならない。アベノミクスは円安と株高でその機会を創出したが、結局は企業が内部留保を増やしただけだった。

 90年代には5%近くあった潜在成長率が1%を割ったままなのは、企業が設備や人への投資をせずに内向きな経営に終始してきた結果だろう。巨額の財政出動をしながら国民生活が向上するどころか、低下してしまった失敗を繰り返してはなるまい。

 現下の経済情勢は楽観できない状況だ。国民が物価高に疲弊したのか、個人消費が落ち込み、直近のGDPは2四半期連続のマイナスに沈む。景気腰折れの懸念さえある。

 岸田首相は賃上げを声高に連呼するが、大幅賃上げがあった23年も実質賃金は2・5%もの目減りだった。物価上昇を大幅に上回る賃上げが実現できるかは、極めて微妙と言わざるを得ない。

 日本の1人当たりのGDPは既に経済協力開発機構OECD)加盟38カ国中21位、先進7カ国(G7)では最下位と目を覆いたくなる。経済大国を自負できるどころか、国際社会、とりわけアジアでの発言力低下が避けられないことを直視すべきだろう。

 成長には、労働市場流動性を高め、ITやデジタル技術などの分野を深化させる挑戦がなにより重要になる。人手不足を補うために定年制を廃止して高齢者の就労を促進し、女性や外国人の雇用拡大にも力を入れねばなるまい。成長分野に人材や資金が十分供給できるような制度改革も必要になるはずだ。

 日本の株価がバブル期を超えるような上昇機運に乗っていることは追い風には違いない。春闘での賃上げも含め、将来の成長につながる経済の好循環が本当に実現できるかどうか。岸田政権の浮沈が問われる正念場である。