内閣府が発表した2023年の名目国内総生産GDP)は、日本がドイツに抜かれ世界4位に転落した。政府・日銀は、巨額の財政出動を伴う経済対策を繰り返し、大規模な金融緩和を続けてきたが成長への寄与は限定的だったと言えよう。今なお事実上継続するアベノミクスへの通信簿と受け止めるべきだ。

 昨年の日本の名目GDPは591兆円余りで、内閣府のドル換算では4兆2106億ドル。これに対してドイツは約4兆4500億ドルとなり、日本を上回った。

 日本は米国に次ぐGDP世界2位の座に長くあったが、10年に中国に抜かれ3位に。国際通貨基金IMF)によると4位も盤石でなく、26年にはインドに抜かれ5位へ後退する見通しだ。国際社会、とりわけアジアでの発言力低下は避けられないだろう。

 日独逆転に注目したいのは、その要因や背景からアベノミクスに代表される近年の経済政策の問題点が浮かび上がるからだ。第一に円安である。ドイツの名目GDPが昨年伸びた要因は物価高騰にあり、実質成長率は小幅なマイナスだった。それにもかかわらず日本が下回ったのは、記録的な円安でドル換算額が目減りしたためだ。

 円の下落には産業構造の変化などさまざまな要素があるが、影響が大きいのは日銀による金融政策だ。デフレ脱却を掲げて13年に始めた大規模金融緩和は、円安による輸入物価の上昇などに期待した政策であり、今も変わらない。

 だが円安の恩恵は輸出やインバウンドの関連産業に偏る。一方で、物価高を一層深刻にした負の面を国民は感じているはずだ。自国通貨安政策の危うさを日独逆転は改めて気付かせてくれる。

 アベノミクスのもう一つの柱であり、岸田政権でも変わらない巨額の財政出動も同様だ。毎年のように補正予算を組みばらまきを続けてきたが、効果はその時限りだったと言うほかあるまい。

 金融緩和、財政出動ともに成長力向上の効果は乏しく、過去10年平均の実質成長率は年0.6%。その半面、多大なツケを残した点を見過ごしてはならない。超低金利の長期化は経済の新陳代謝を停滞させ、予算のばらまきは1千兆円を超える国債残高の山を築いた。

 日独の差は「1人当たり」という別の物差しで見るともっと大きい。経済協力開発機構OECD)加盟国の22年の1人当たり名目GDPは、ドイツが約4万9千ドルで16位に対して、日本は約3万4千ドルで21位。年間労働時間はドイツの1341時間に比べ、日本は2割多かった。ベルリンの1人当たり公園面積は東京23区の6倍超だ。

 少子高齢化と人口減少の加速する日本が成長を維持するのは容易でない。これまで同様「GDP至上主義」を続ければツケは膨らむばかりだ。日独逆転を、個々の「暮らしの質」を重んじる経済運営へ軸足を移す好機と捉えるべきだろう。

 国民が豊かさを実感できない中での足元の株高も、企業利益優先のわが国のゆがみを映している。低賃金、非正規雇用の増加、税や社会保障負担の不公平、止まらない東京一極集中-。大企業優先でなく、個々の生活を重んじる視点に転じれば、直面する課題に今までと異なる答えが出てこよう。それを求めて国民が声を上げたい。

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不適切にもほどがある(2024年2月17日『熊本日日新聞』-「新生面」)

 昭和と令和が舞台のテレビドラマ『不適切にもほどがある』で描く昔の日本は1986(昭和61)年だそうだ

▼当時を知る身としては主人公の不適切な行状に爆笑しつつ、思い当たることもあり過ぎて胸がチクチクする。「セクハラ」が流行語になったのは3年後の89年。ジャパニーズビジネスマンが「24時間戦えますか」と歌ったCMも同じ年

▼経済絶好調の80年代も今は昔で、日本の名目国内総生産GDP)が中国に抜かれたのは2010年。昨年ついにドイツを下回り世界4位に転落した。GDPの額は過去最高なので、当面の円安が足を引っ張ったとの見方もある

▼だがやはり根っこにあるのは「失われた30年」といわれた長期停滞に違いない。日銀総裁を務めた白川方明氏によれば、生産年齢1人あたりの比較では、日本の実質GDPの伸びは主要国トップ。令和のビジネスパーソンも戦っている。結局、一番の問題は人口減にある(『中央公論』3月号)

▼政府が導入する「子ども・子育て支援金」は、公的医療保険の徴収額を段階的に上乗せして最大1兆円を賄う。少子化対策へやっと重い腰を上げたのは良いが、新政策を始めるたびに国民負担を増やす癖はどうにかならないか

政党交付金は1995年以降、国民1人250円、年額300億円余りの公費を政治に投じてきた。支出は累計8千億円を超える。成長の跡が見えない業種なのに助成金だけはよく続くものだ。おまけに裏金とは。昭和じゃあるまいし。不適切にもほどがある。