井水のトイレと2億円のトイレ(2024年2月22日『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 32年前に、延岡市の大神のりえさんがインドに開村した「インド国際子ども村ハッピーバリー」の開村式を取材したときのこと。新築ゆえか、数日間泊まる宿泊施設の水が出なくなるトラブルに見舞われた。

 一番困ったのはトイレだった。水洗なので水が流れないとお手上げだ。トイレはここ以外にない。幸い半日ほどで復旧したが「この状態が続いたら…」と、強いストレスを感じた。今でも大地震が起き被災地での断水が報じられると、あの時の不安がよみがえる。

 今回の能登半島地震でも「トイレの問題」が頻々(ひんぴん)と報じられている。断水で避難所もトイレが流れない。行く回数を減らすため水分を取るのを我慢しているという被災者。ようやく仮設トイレが届き始めたのは「もう限界」との声が聞かれ始めた発生5日目のことだった。

 直下型、海溝型といった地震のタイプによって被害の状況や対応に違いはあれど、被災者の精神的ストレスなど共通するものも多い。トイレ問題もその一つ。水道復旧のめどが立たない石川県珠洲市のデイサービス施設では、トイレや入浴で必要となる水を確保するため新たに井戸を掘ったという。

 そんな中で、大阪・関西万博会場に設置するトイレの一部におよそ2億円で契約した設備があることが明らかになったという。経産相も万博相も「必ずしも高額とはいえない」とのことだが、被災地の感情を考えると、そこはやはり丁寧な説明が必要だろう。