GDP世界4位に転落(2024年2月19日)

GDP世界4位に転落 暮らしの立て直し急ぐ時(2024年2月19日『毎日新聞』-「社説」)

 

2023年の名目国内総生産GDP)速報値について、談話を発表する新藤義孝経済再生担当相=東京都千代田区内閣府で2024年2月15日、中島昭浩撮影


 物価高に苦しむ国民の暮らしを立て直さなければ、経済再生もおぼつかない。

 日本の昨年1年間の名目国内総生産GDP)がドイツに抜かれて、世界4位に転落した。

 円安でドル換算のGDPが目減りしただけではなく、日本経済が抱える大きな問題を反映した。5割以上を占める個人消費の停滞が続いていることだ。

 新型コロナウイルス禍から経済活動が正常化した効果も息切れし、昨年7~9月期以降は2期連続のマイナス成長に陥った。

 背景には、賃上げが物価上昇に追いつかないことがある。昨年の実質賃金は前年比で2・5%減った。消費増税が影響した2014年以来の下げ幅となった。

 所得が低いほど物価高の負担は重くなる。非正規労働者は全体の4割近くを占め、厳しい節約生活を強いられている人は多い。

 懸念されるのは格差の拡大だ。

 日経平均株価はバブル期につけた史上最高値に迫っている。円安で自動車など輸出企業の好決算が相次ぎ、高所得者を潤している。

 東京23区で昨年発売された新築マンションの平均価格は初めて1億円の大台を超えた。「パワーカップル」と呼ばれる高年収の共働き世帯が「億ション」の買い手となっている。

 アベノミクスでも円安のメリットは大企業や富裕層に限られた。大幅に増えた非正規労働者などは蚊帳の外に置かれ、消費は低調なままだった。いびつな経済構造は今も変わっていない。

 にもかかわらず、岸田文雄首相は1月の施政方針演説で最近の賃上げや株高に触れ、「日本経済が新たなステージに移行する明るい兆しが随所に出てきている」と強調した。多くの国民の実感とは、かけ離れているのではないか。

 カギを握るのは今年の春闘だ。大企業では積極的な賃上げに応じる動きが出ている。課題は、雇用の約7割を占める中小企業に波及するかだ。取引先である大企業の協力や政府の支援が欠かせない。

 首相肝煎りの所得減税が6月にも実施される。だが小手先の景気刺激策を繰り返しても、将来不安は解消しない。格差の是正に本格的に取り組み、国民生活の底上げを図ることが急務だ。

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【日本GDP4位】長引く停滞を映す転落(2024年2月19日『高知新聞』-「社説」)

  
 経済成長に力強さを欠いてきた結果だ。経済規模を測る一つの指標が国民の豊かさと直結するわけではないとはいえ、停滞が長引くようでは生活の底上げは望めない。要因を見極めた対処が求められる。
 2023年の国内総生産(GDP)速報値は、経済規模をそのまま表す名目GDPがドル換算でドイツに逆転され世界4位に転落した。
 名目GDPの金額自体は物価高に伴い過去最高を記録した。しかし、円安ドル高で目減りしたほか、ドイツの物価が日本を上回るペースで上昇したことが影響した。
 バブル経済の崩壊以降、日本は「失われた30年」と呼ばれる低成長に陥った。企業はリスク回避で設備投資を控えてリストラを進め、長引くデフレが足かせとなった。
 かつては「世界2位の経済大国」だったが、10年には中国に抜かれている。今後もインドなどに追い越されると予測される。ことさら順位にこだわる必要はないが、経済力の低下は存在感を低下させかねない。
 23年10~12月期のGDPは、物価変動を除く実質は年率換算で0・4%減だった。市場予想はプラス成長を見込んでいたが、マイナス成長が2四半期続いてしまった。
 内需が盛り上がっていない。個人消費は衣料や外食が落ち込み、3四半期連続で前期比マイナスとなった。設備投資も資材価格の高騰や人手不足が響いて減った。
 23年の消費支出も前年を下回った。幅広い食品への支出が落ち込んだ。教育費を切り詰める動きもみられる。物価上昇が暮らしを圧迫し、消費を控える状況を映し出す。
 物価高をはね返すには賃上げが鍵を握るが、物価変動を考慮した23年の実質賃金は前年比2・5%減と、2年連続のマイナスとなった。名目賃金は増えている。しかし、物価高騰に賃上げが追いついていない状況が続く。今春闘は賃上げに前向きな企業が多いものの、その持続性や中小、零細企業にどこまで波及するかが焦点となる。
 人口減少と高齢化で人手不足が深刻さを増している。需要が増えても人手が足りずに対応できず、成長を制約する場面が出ている。働きやすさの確保が不可欠だ。賃上げで人材を確保し、生産性を高めて賃上げを定着させる好循環が期待される。
 日銀の大規模な金融緩和策は円安につながり経済を下支えしたが、輸入物価を押し上げるなど弊害も目立つ。賃上げを伴う形で物価上昇率を2%に安定させる目標の達成が見通せれば緩和策の正常化へ動くとする。その時期や規模、金利の上昇による影響を注視する必要がある。
 東京株式市場の日経平均株価バブル経済期に付けた過去最高値の更新をにらむ。海外勢がけん引するほか、少額投資非課税制度(NISA)が刷新されたことで個人投資家の取引が増えて資金が流入した。
 好調な企業業績を背景とした活況だが、景気の実感との隔たりは大きい。恩恵が広がるように多彩な取り組みが必要だ。