一万円選書(2024年2月22日『佐賀新聞』-「有明抄」)

一万円選書: 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語 (ポプラ新書 ...

 

 北海道砂川市のいわた書店は「一万円選書」で知られる。店主の岩田徹さんが1万円の予算で、客に合わせて本を選んで届けるサービス。本に関する深い知識と経験に基づく選書が評判を呼び、多くの人が利用している

バブル崩壊後、書店経営は悪化の一途だった。何とか抜け出そうと考えていたとき、先輩から「書店に行っても面白い本が分からない。自分に合う本を見繕って」と1万円を手渡されたのがきっかけだった。当初は芳しくなかったが、深夜番組で紹介され、SNS(交流サイト)で一気に広まった

◆依頼主には「選書カルテ」を記入してもらう。印象に残っている本、人生でうれしかったこと、苦しかったこと…。岩田さんはカルテを読むと、何に悩み、葛藤しているかなどが分かるという

◆本との出会いを大切にした取り組みだが、一方で「こんな浅ましい買い方があるのか」と思うのが自民党二階俊博元幹事長の政治団体である。書籍代として3年間で約3470万円を支出。二階氏の政治家人生をつづった本など計2万7700冊を購入し、選挙区外の行政や議会関係者に配布したという

◆カルテを書いたわけでもなく、一方的な選書は迷惑なだけで読む気がしない。裏金事件で揺れる政界の病状は極めて深刻。政治資金の使途こそ、詳細に記入するカルテが必要である。(知)