夫婦別姓を認めない民法の規定は憲法に違反するとして、東京都などに住む12人が国に賠償などを求める裁判を3月に起こすことが分かりました。
同じ規定について、最高裁判所大法廷は2度にわたり合憲と判断していますが、弁護団は「夫婦別姓を求める意識は高まり、事情が変化している」と訴えています。

訴えを起こすのは、東京都や北海道、長野県などに住む事実婚カップル5組と夫婦1組の合わせて12人です。

12人は、夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定について、「婚姻の自由などを保障した憲法に違反し、無効だ」などとして、国に賠償などを求め、3月8日に東京と札幌の地方裁判所に訴状を提出する予定です。

12人と弁護団は、
▽結婚して名字が変わると、旧姓にひも付いていた信用や評価を維持することが難しくなるほか、アイデンティティーの喪失を感じる人も少なくないと主張しています。

また、
▽結婚を諦め事実婚を選んだ夫婦も不利益を被っているとしています。

同じ規定をめぐっては、夫婦別姓を求める人たちが繰り返し裁判などを起こしていて、2015年と2021年には、最高裁判所の裁判官15人全員が参加する大法廷で審理され、いずれも多数意見で「憲法に違反しない」という判断が示されましたが、「憲法に違反する」という意見も2015年は5人、2021年は4人いました。

弁護団は「日本経済団体連合会や多くの地方議会が夫婦別姓を求めるなど意識は高まり、事情は変化している」として、最高裁判所の判断変更を訴えています。

夫婦別姓」これまでの最高裁の判断は

 

夫婦別姓を認めない民法の規定について、最高裁判所大法廷は9年前の2015年と、3年前の2021年の2度、憲法に違反しない「合憲」という判断を示しています。

初めての判断となった9年前の判決で、最高裁は「夫婦が同じ名字にする制度は、わが国の社会に定着してきたものであり、社会の集団の単位である家族の呼称を1つにするのは合理性がある」としました。

一方で、「今の制度は社会の受け止め方によるところが少なくなく、制度のあり方は国会で論じられ判断されるべきだ」として、国政での議論を促しました。

このときは、大法廷の15人の裁判官のうち、5人が「憲法に違反する」という意見や反対意見を述べ、このうち、3人の女性裁判官は連名で意見を出しました。

女性裁判官3人は「96%もの夫婦が夫の名字を名乗る現状は、女性の社会的、経済的な立場の弱さからもたらされている。多くの場合、女性のみが自己喪失感などの負担を負うことになり、両性の平等に立脚しているとはいえない」として、憲法に違反するという判断を示しました。

3年前の決定でも、最高裁は「2015年の判決後の社会の変化や国民の意識の変化といった事情を踏まえても、憲法に違反しないという判断を変更すべきとは認められない」と指摘し、憲法に違反しないと判断しました。

そのうえで、「どのような制度を採るのが妥当かという問題と、憲法違反かどうかを裁判で審査する問題とは次元が異なる。制度のあり方は国会で議論され判断されるべきだ」としました。

このときは、裁判官15人のうち、4人が憲法に違反するという判断を示し、「婚姻の自由と夫婦の平等を保障した憲法の趣旨に反し、不当な国家介入にあたる」などと指摘しました。

経団連 “キャリア形成の妨げに「選択的夫婦別姓」導入を”

 

経団連は、夫婦別姓を認めない今の制度はキャリア形成の妨げになるおそれがあるなどとして、「選択的夫婦別姓」の導入が必要だとしています。

1月中旬には経団連ダイバーシティ推進委員会が、女性活躍や男女共同参画を担う加藤大臣と懇談し、夫婦が希望すれば、それぞれ結婚前の名字を選べる選択的夫婦別姓の実現などを求めました。

この中では、
▽海外でのビジネスの際などには、結婚前の名字がパスポートに記載されておらず支障が出かねない現状や、
▽研究職などのようにキャリアを積み上げていく際にも、不利益が生じかねないことを指摘しました。

経団連の十倉会長も2月の記者会見で、1996年に国の法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申したことなどを踏まえ、「なぜこんなに長いあいだたなざらしになっているのかわからないし、世界では日本だけだと聞いている」と述べました。

そのうえで、「海外の公的機関に出はいりするときなどに、面倒なこともあると聞いている。政府として女性の働き方改革をサポートする1丁目1番地として進めてほしいと思う」と述べ、経団連としても、政府への提言を来年度の前半に取りまとめる考えを示しました。