勤務医の時間外労働に上限を設ける「医師の働き方改革」が導入された。長時間労働に支えられてきた医療提供体制を転換し、持続可能な形にすることを目指す。
医師が心身ともに疲弊し、退職に追い込まれるだけでなく命を落とす事例も起きている。負担の軽減は喫緊の課題である。
ただ町村部や救急医療現場などではすでに医師不足が深刻だ。改革により一層危機的になる恐れがある。地域医療の維持に向け、社会全体で取り組む必要がある。
改革は2019年施行の関連法に基づく。医療への影響を考慮し導入が5年猶予された。上限も一般労働者より緩く、過労死ラインに当たる年960時間となった。
さらに救急医療や医師派遣などを担う病院に対し、上限を年1860時間にする特例まで設けた。
これでは現状追認に等しく改善が急がれる。厚生労働省の22年の調査で、時間外が年960時間超の医師は2割を占めた。放置すれば健康を害するだけでなく、診察ミスも招き医療の質は低下する。
一方、日本医師会の調査では、働き方改革の導入により救急医療体制の縮小や撤退が懸念されると答えた医療機関が3割に達した。
大学病院などが地方への医師派遣を中止する動きも不安材料だ。派遣の依存度が高い地域は道内にも多く、今後、各地に広がれば深刻な事態を招く可能性がある。
夜間などの宿日直を勤務時間から除外できる特例を申請する病院も増えている。技術向上に必要な勉強会の参加を「自己研さん」とし労働時間から外す慣例も残る。改革を形骸化させてはならない。
その上で地域医療を守る施策が求められる。特に重要なのは地域別、診療科別の偏在の解消だ。
医師数は過去10年で4万人以上増え34万人に達した。30年以降は過剰になると厚労省は推計する。
それでも医師不足の問題が起きるのは、夜間の緊急手術などで激務にさらされる外科や救急科、産婦人科などが敬遠され、勤務地も都市部に希望が集中するためだ。
国や自治体は医学部の地域枠設定などで医師を確保してきたが、不足が著しい診療科の待遇改善など対策の拡充が必要となろう。医師を志す若者に地域医療を守る意義、やりがいも伝えてほしい。
看護師らへの業務移管も重要だが、看護師も多忙かつ人手不足が課題で国の対策が不可欠だ。住民もまずはかかりつけ医を利用し、緊急性が低い夜間診療は控えるなどの配慮を心掛けていきたい。