燃え上がる女性記者たち(2024年2月21日『琉球新報』-「金口木舌」)

 子どもが幼いころ、仕事で帰りが遅くなることに罪悪感を覚えた。夕ご飯をあげる、お風呂に入れる、寝かし付ける。逆算すると午後6時には帰りたい。でも帰れない。夫が協力的でも、連日となるとお互いストレスがたまる

▼同じ思いを抱いているのではないか。ドキュメンタリー映画「燃え上がる女性記者たち」に出てくるインドの女性記者たちだ。取材現場を駆け回り、家に帰ると「一日中仕事ばかり」と夫に小言を言われる

カースト制の最下層に属する彼女たちが仕事をするのは並大抵のことではない。スマホを武器にインド社会の因習に挑む。テーマは身近なトイレの問題から政治まで多岐にわたる

▼「(メディアには)人権を守る力がある。それを人々の役に立てるべきだと思う」。逆境に向き合う記者ミーラの決意が伝わる

▼男性も女性もとらわれがちな「こうあるべきだ」という社会通念と彼女たちは闘っている。日本はどうだろう。女性の生き方と報道の在り方、双方について考えさせられる。2月29日まで、シアタードーナツで上映中。

 

解説
インドで被差別カーストの女性たちが立ちあげた新聞社「カバル・ラハリヤ」を追ったドキュメンタリー。

インド北部のウッタル・プラデーシュ州で、カースト外の「不可触民」として差別を受けるダリトの女性たちによって設立された新聞社カバル・ラハリヤ(「ニュースの波」の意)は、紙媒体からSNSYouTubeでの発信を中心とするデジタルメディアとして新たな挑戦を開始する。ペンをスマートフォンに持ちかえた女性記者たちは、貧困や階層、ジェンダーという多重の差別や偏見にさらされ、夫や家族からの抵抗に遭いながらも、粘り強く取材して独自のニュースを伝え続ける。彼女たちが起こした波は、やがて大きなうねりとなって広がっていく。

2022年・第94回アカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたほか、2021年サンダンス映画祭ワールドシネマドキュメンタリー部門で審査員特別賞&観客賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門で市民賞を受賞するなど高く評価された(山形国際ドキュメンタリー映画祭上映時のタイトルは「燃え上がる記者たち」)( 映画.com)。

2021年製作/93分/G/インド
原題:Writing with Fire
配給:きろくびと
劇場公開日:2023年9月16日