能登地震(2024年2月16日)

 

能登地震SNSのうそ情報/発信と拡散の重み自覚して(2024年2月16日『福島民友新聞』-「社説」)

 意図的なうそや誤った情報は、助けを必要とする人への救いの手が遠ざかったり、不安を増大させたりする。情報を発信、拡散する人はその重みを自覚するべきだ。

 東日本大震災以降、災害情報などの発信力の強さが注目され、急速に浸透したのがインターネットの交流サイト(SNS)だ。個人が不特定多数に発信できるため浸透が進むにつれ、情報の信頼性の担保が大きな課題となっている。

 能登半島地震では、救助を求めるうその情報などが拡散された。こうした情報は一刻を争う救助や避難の動きを混乱させる。大規模災害のさなかに、誤った判断を誘発するような情報を発信するのは、人命を奪いかねない行為だ。

 うその情報が出回る責任はまず発信者にあるものの、その影響力は拡散されることで強まってしまうものだ。災害時にはさまざまな情報がSNSにあふれる。信ぴょう性が判断できない情報の安易な拡散も避けることが求められる。

 うその情報の弊害は災害発生直後ばかりではない。能登半島地震の発生後、SNSでは窃盗グループなどについての誤った書き込みや、今回の地震は「何者かが起こした人工的なもの」という荒唐無稽な情報が出回った。

 被災者は長引く避難生活などで、心身両面で疲弊している。こうしたうそをSNSで直接見たり、内容を人から聞いたりすることで被災者の抱く不安は、被災していない人が思うよりも大きい。発信や拡散の前に、その投稿が読む人にどのような影響を与える可能性があるのかを想像してみることが重要だ。

 うその情報が出回る背景には、SNSで表示された回数が増えると、事業者の広告収入から一定の報酬が支払われる仕組みがあるとの指摘がある。報酬目当てでうその情報が氾濫しているのであれば、災害情報などに関しては報酬が発生しないようにする、明らかにうそと分かる情報は投稿できないようにするなど、事業者側が改善を図っていく必要がある。

 政府は、うその情報の拡散を受け、災害情報については公的機関の情報などを確認するよう呼びかけるとともに、SNS事業者らに、適切な対応を要請している。

 SNSには、行政や企業が発信する有用な情報も掲載されている。被災地に関する投稿もうそや誤りばかりではない。ただ誤った情報の比率が増せば、利用者の信頼の低下は避けられまい。情報入手の手段としての信頼性を担保できるかどうかは、事業者側の取り組みにかかっている。

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能登地震がれき処理 目詰まりの解消が急務だ(2024年2月16日『毎日新聞』-「社説」)
 
「災害廃棄物」の仮置き場には、地震によって壊れた家財道具や電化製品などが大量に持ち込まれている=石川県七尾市で2024年1月29日、平川義之撮影拡大
「災害廃棄物」の仮置き場には、地震によって壊れた家財道具や電化製品などが大量に持ち込まれている=石川県七尾市で2024年1月29日、平川義之撮影

 能登半島地震の被災地の復旧には、大量のがれき処理を着実に進めることが必要だ。

 石川県によると、災害廃棄物は推計244万トンに上り、県全体の7年分に相当する。珠洲市など奥能登の4市町では、59年分が発生すると見込まれる。

能登半島地震の被災地では、多くの倒壊した建物がそのまま残されている。今年3月以降、解体作業が本格化する予定という=石川県珠洲市で2024年2月1日、平川義之撮影

 被災地だけで対応するのは困難だ。県は、内外の自治体が協力する広域処理を想定し、2025年度末の完了を目指している。

 道路をふさぐがれきは復旧作業の支障となり、衛生環境の悪化や火災の原因になる。余震などで崩れ、事故を起こす恐れもある。計画通りに進まなければ、復旧に影響が出かねない。

 東日本大震災では約3100万トンの処理に3年、熊本地震は約300万トンに2年を要した。一定の期間がかかることはやむを得ない。作業の進捗(しんちょく)を点検し、住民への説明を尽くす必要がある。がれきの処理に手間取り、被災者の生活再建への意欲がそがれるようなことがあってはならない。

 しかし、前途は多難だ。

 仮置き場に通じる道路状況は悪く、渋滞が頻発している。運営を担う人員も足りていない。3月以降、建物の解体が本格化する予定だ。大量のがれきを集める新たなスペースの確保が不可欠になる。

 広域処理のために輸送しようにも、陸のルートは限られる。海上輸送の早期実現が求められる。

 奥能登では、自宅の片付けや仮置き塲への輸送ができない高齢者が多い。ボランティアへの期待は大きいが、断水が続いているため宿泊が難しく、活動の制約になっている。

 過去に災害を経験した全国の自治体職員が、現地で活動している。ノウハウを生かし、がれき処理の目詰まり解消に寄与してほしい。

 政府は、被災自治体への財政支援の拡充を検討すべきだ。

 倒壊した家屋には、被災者の思い出の品も残されている。生活や人生が刻まれたものを失えば、精神的な喪失感を抱く人も少なくないだろう。心のケアをはじめ、きめ細かなサポートを提供することが欠かせない。

 

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半島の絆(2024年2月16日『中国新聞』-「天風録」)

 出雲国の成り立ちにまつわる国引き神話では、四つの土地を日本海から綱で引き寄せて、島根半島をつくったとされている。うち一つが能登半島の「都都(つつ)の三埼(みさき)」で、今の松江市美保関町辺りだ
 
▲都都は、元日の地震で大きな被害を受けた石川県珠洲市に当たる。直線距離で400キロ以上離れた両地を巡る奇想天外な神話は、いにしえからの交流を物語る。互いに物や文化を分かち合ってきたのだろう。半島同士、地形や地質も似ているらしい
 
能登を襲った大地震では道路があちこちで寸断され、集落がいくつも孤立した。島根半島に暮らす住民にとって人ごとではなかったようだ。3年前に島根県東部を襲った豪雨災害を重ねた人も多かったはず。海沿いを走る県道で土砂崩れが相次いだのが記憶に新しい
 
原発が立地するのも共通している。激しい揺れで家屋が倒壊したところに福島のような事故が起きれば逃げ場がない。住民らに屋内退避や県外避難を呼びかける県も、さぞ頭が痛かろう
 
松江市は、合併前の旧美保関町時代から姉妹都市として交流する珠洲市へ被災直後から職員を派遣し、苦難を分かち合う。半島に安心を引き寄せる絆を一層深める時だろう。
 
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 災害廃棄物 迅速処理へ支援広げたい(2024年2月16日『熊本日日新聞』-「社説」)

 能登半島地震で倒壊した建物のがれきなど、石川県内の災害廃棄物の量が244万トンに上るとの推計を県が発表した。県内の年間ごみ排出量の約7年分に相当するという膨大さだ。

 

 県は2025年度末の処理完了を目指すとしているが、被災自治体の努力だけでは到底、対応できるものではない。廃棄物が山積みの状態が続けば、地域の復旧・復興や被災者の生活再建に大きな足かせとなる。自治体の枠を超えて支援を広げ、廃棄物の搬出・処理を迅速に進めたい。

 

 過去の災害では阪神大震災約1500万トン、東日本大震災約3100万トン(津波堆積物約1100万トン含む)、熊本地震では約311万トンの災害廃棄物が発生した。石川県は全半壊して解体される建物の棟数などを想定した上で244万トンと推計した。

 

 このうち、被害が甚大な奥能登地域2市2町が約6割の151・3万トンを占め、地域の年間排出量の59年分に相当。最も多い珠洲市は57・6万トンで、市の年間排出量の132年分に上るという。

 

 能登半島では廃棄物の運搬ルートとなる道路網が深刻な被害を受け、復旧に時間を要している。加えて険しい地形のため、がれきや家財道具などの仮置き場や中間処理施設の用地確保が容易でないという事情もある。周辺道路の損傷などで、想定していた候補地が使えないケースもあった。

 

 このため県は、陸上の運搬ルートの確保を急ぐとともに、被災地の港から搬出して海上輸送で県外の処理施設に運ぶことを検討している。

 

 災害廃棄物の海上輸送は熊本地震でも前例がある。木くずをコンテナ船などで三重県まで運んで処理。陸路での運搬も合わせ、熊本県外での処理量は全体の約16%の約50・3万トンに達した。今回も実施するには県外での廃棄物受け入れ先を確保する必要がある。国が調整力を発揮してもらいたい。

 

 廃棄物を被災地でリサイクルするのも有効な手段だろう。東日本大震災ではコンクリート片や堆積土を復旧工事で舗装道路の下地などに活用した。大型トラックによる廃棄物の運搬量が抑えられ、被災地の渋滞緩和につながった例もあるという。

 

 能登半島地震は発生から1カ月半が経過。住民の高齢化や人手不足で、被災した家屋に手を付けられず途方に暮れている人もいるだろう。外からの支援が必要だが、自治体側のボランティア受け入れ態勢もまだ万全ではない。現地への移動や宿泊場所の確保など、支援に入りやすい環境が早く整ってほしい。片付けが進めば、被災者の気持ちも少しは楽になって前に向かえるのではないか。

 

 石川県の馳浩知事は「被災者の生活再建を最優先に、災害廃棄物を迅速に処理したい」として全国の支援を求めている。国や県外自治体、民間団体・業者も含め、廃棄物の運搬や処理に協力したり、過去の被災経験からノウハウを提供したりして支えたい。