避難所の炊事「男性もカレーくらい作ってほしい」 女性に偏る傾向、役割固定化に懸念の声(2024年2月20日『産経新聞』)

 
      断水が続く中、避難所で食事を作る女性たち=石川県穴水町男女共同参画地域みらいねっと提供)

能登半島地震の発生から1カ月以上が経過し、現地では避難所運営を巡り、一部の被災者に特定の役割が固定化されることへの懸念が高まっている。特に毎日の食事作りは女性に偏る傾向があるという。ボランティアの聞き取りに対し、「男性もカレーくらい作ってくれたらいい」と打ち明ける声もある。民間の支援団体は「持続可能な避難所運営ができるように、役割分担やルール作りの調整役が必要だ」と訴える。

日中の避難所に男性がいない

「発災から2~3週間くらいまでは、被災者自身も命を守ることを優先して過ごしていた。1カ月以上が経過した今は、避難所を実際に切り盛りしている人たちの積み重なった疲労やストレスが心配だ」

そう話すのは、これまでに2回、石川県穴水町で避難所運営の支援を行った「男女共同参画地域みらいねっと」代表理事の小山内世喜子さんだ。

東日本大震災以降、「防災にも男女共同参画の視点が必要」という認識のもと、学校での避難所の運営訓練や、各地で女性の視点を取り入れた住民向けの「避難所運営マニュアル」作成などに取り組んできた。

お湯を張ったバケツに足を浸し〝足湯〟でくつろぐ能登半島地震の被災者(男女共同参画地域みらいねっと提供)

小山内さんらは今回の能登半島地震を受け、1月14~17日と、2月2~5日の2回にわたって、複数の避難所で支援活動を行った。被災者の声に耳を傾けようと、バケツにお湯を張り〝足湯〟を楽しんでもらいながら、対話する試みなどを続けてきた。

小山内さんが最初の訪問のときから気になったのが、日中の避難所の働き手が一部の女性に限られていることだった。

「仕事や家の片付けがあるからなのか、避難所には日中、働き盛りの男性の姿が見えなかった。残っているのは高齢者が多く、体を動かしているのは30~50代くらいの女性らが中心だった」

洗濯機の導入「誰が管理を…」

能登半島地震で被災した石川県穴水町の避難所に導入された洗濯機(男女共同参画地域みらいねっと提供)

発災から1カ月が経過した2回目の訪問の際には、状況がより過酷になっていたという。2次避難先に移動したり、仕事を再開したりして、避難所の女性の働き手が少なくなり、残された人の中で、役割の固定化が鮮明になっていた。

「ちょうど避難所に新しく、洗濯機や簡易シャワー設備が入ったところだったが、女性たちは歓迎しつつも『この管理も私たちがすることになる。人が少ない中、できるのか』と心配していた」と小山内さんは振り返る。

断水が続く中、避難所で過ごす人のために3食用意するのは重労働だ。

小山内さんは「女性らは『それが自分の役目』と一生懸命、料理をしていたが、一人ずつ、じっくり話を聞いていくと、『男性にカレーでもいいからつくってほしい』という本音を支援のメンバーに打ち明けてくれた」と語る。

三者が調整役を

避難所運営が一部の被災者に偏らないようにするには、どうすればいいのか。

小山内さんは多様な要望を客観的に聞き取り、意見を調整して合意形成に導く「ファシリテーター」の存在が必要だと話す。

「避難所で生活する被災者の誰かがリーダーシップをとり、ファシリテーターになるのもいいが、特に地方だと人間関係が近く、軋轢(あつれき)も生じやすい。第三者の立場から避難所に関わり、聞き取った要望を行政や企業につなぎ、避難所内の役割分担の調整ができる人材の育成が求められるのではないか。もちろん、そこにも女性の視点が必要だ」(篠原那美)