江東区長選の買収事件 柿沢未途元衆院議員、何聞かれても「公訴事実すべてに争わない」 被告人質問(2024年2月20日『東京新聞』)

昨年4月の東京都江東区長選を巡る刑事裁判で、公選法違反(買収など)の罪に問われた前法務副大臣で元自民党衆院議員の柿沢未途被告(53)の被告人質問が、20日午後1時半から、東京地裁で始まった。
江東区長選において、候補擁立から選挙戦まで取り仕切ったとされる柿沢被告が何を語るのか。法廷でのやり取りを随時、速報する。(デジタル編集部)

◆13:28 柿沢被告が入廷

柿沢被告は紺色のスーツにノーネクタイで入廷。頭を下げた後、弁護人の隣の席に座った。

◆13:30 開廷

弁護人から被告人質問は始まった。
弁護人から「現在の心境や気持ちは?」と問われると、柿沢被告は初公判での発言を繰り返し、こうの述べた。
「私の行動、言論に端を発して、東京地検特捜部の捜査が行われ、その過程で多くの方々が巻き込まれ、取り調べを受け、逮捕、起訴される事態が生じた。多大な苦しみをもたらしてしまった私の責任は重く、その責任を踏まえて、公訴事実について一切争わないこととした。先般申し入れたとおり、この場で申し上げたいことは以上です」
弁護人は「公訴事実に関する被告人質問はいたしません。以上です」と、数分で質問を打ち切った。

◆13:35 検察側の質問に同じ発言繰り返す

検察側の質問に移った。
「検察官の取り調べにウソをつくことなく正直に話したか?」との質問に、柿沢被告は「私の行動・言論に端を発して、捜査が行われ多くの方々が巻き込まれ、逮捕起訴されそうした方々に甚大な苦しみをもたらした。当の本人である私は公訴事実その全てを争わないことにした。申し上げたいことは以上です」と冒頭の発言を繰り返した。
噛み合わない答えに、検察官が「ウソをつくことなく答えたか?」と再度尋ねた。
柿沢被告は「私の行動・言論に…」と再び同じ内容を繰り返そうとすると、裁判長が「イエスかノーかで答えて欲しい」と制した。
それでも柿沢被告は「公訴事実すべてに争わないという姿勢です。それが私の答えです」と返答した。
「(供述調書に)間違いないと確認したか?」との質問にも、「私の行動、言論に端を発して…」と同様の発言を繰り返した。
 

◆13:40 山崎元区長との関係性「お答え差し控える」

14日の検察側の冒頭陳述によると、柿沢被告は2021年10月に自民党に入党し、次の衆院選の党公認候補に当たる東京15区支部長を目指したが、区長だった山崎孝明氏=23年に死去=と長男で自民都議だった一輝(いっき)氏(51)と対立。「親子の影響力をそぐため、木村被告の擁立を考えた」という。
 
この日の被告人質問では、山崎元区長との関係性などに質問が及ぶと、「お答えを差し控える」を連発した。
初登庁した木村弥生・前江東区長に区長室で会い、就任を祝う柿沢未途被告=柿沢被告のX(旧ツイッター)への投稿より

初登庁した木村弥生・前江東区長に区長室で会い、就任を祝う柿沢未途被告=柿沢被告のX(旧ツイッター)への投稿より

冒頭15分の検察側とのやり取りで、「お答えを差し控える」との回答は15回に上った。
Q 令和3年10月~11月、山崎孝明一族との関係は?
A 今回の裁判で公訴事実について一切争わない立場。今の質問は答えを差し控える。
Q なぜ差し控えるのか?
A 多くの関係者を巻き込んだ立場。公訴事実については全ての事実を争わないという立場。
Q 多くの人を巻き込んだならあなたの口で答えるべきでは?
A この場でお答えするのは差し控える。

◆13:45 木村前区長擁立の狙いも…

昨年4月の江東区長選では候補擁立から選挙戦まで取り仕切ったとされる柿沢氏。支援した前区長の木村弥生被告に関する質問でも同様だった。
Q 木村弥生被告を擁立しようと考えた?
A お答えを差し控える。
検察官が「根幹となるところだ」と語気を強めて、再度尋ねても柿沢氏は意に介さない。
「私の行動、言論に端を発して多くの人々が逮捕起訴され多大な苦しみをもたらした。責任は私にある。責任を踏まえ全てを争わない」と、再び同じ発言を繰り返した。
検察官が「責任を踏まえるときちんと話さないといけないのでは?」と追及しても、「いま申し上げたことが私のすべて」と返すだけだった。
「新しい区政が望ましいと考え候補者としたのか」「勝算があると考えたのか」「(山崎孝明氏より)木村被告の方が若いとか?」と、検察側が、木村被告擁立の動機を尋ねるが、いずれも「お答えを差し控える」。
検察側の質問を聞いていた弁護人が、「被告には黙秘権がある。答えたくないというのは、黙秘権の行使です。同じ趣旨の供述になり、黙秘権行使の侵害です」と割って入った。
裁判長からも「事件については答えたくないということか」と問われた柿沢被告。裁判長の質問にも「事件捜査が行われ、多くの方々を巻き込み、多大な苦しみをもたらした。責任は重い。責任を踏まえ、その全てを争わない。その思いを前回から伝えている。私がこの場で申し上げたいのはそれにつきる」と繰り返した。

◆13:48 裁判長「自分の意思で考えて答えて」

裁判長は、こう指摘した。「自分の意思で考えて答えてください」
検察官は、木村被告に区長選への出馬を働きかけ、出馬の際の声明文を柿沢被告が自らまとめていたことなどを問う。
裁判長から「自分の意思で答えて」と促されたにもかかわらず、柿沢被告は「お答えを差し控えさせていただきます」と繰り返した。
検察官の質問は、区議らに現金を配った趣旨に移る。
「現金の趣旨は、検察官に話した通りでいいですか?」
すると、柿沢被告は「私の行動に端を発し、多くの人が巻き込まれて多大な苦しみをもたらしてしまい、大変申し訳ない。私の責任は重く、今回の公訴事実については全て争わないことにした」などと、冒頭での言葉を繰り返し、まるで噛み合わない。
検察官から「区議選の陣中見舞いのほかに、木村さんの当選に向けた応援の趣旨があると、捜査段階では話していましたよね?」と念を押されても、「お答えを差し控えさせていただきます」と述べるにとどまった。
検察官から「争わないというのは、何か間違いがあるけど争わないという意味か?」などと問われても、被告は「お答えは差し控える」、「先ほど、裁判長に申し上げた通り」との返答に終始した。

◆13:55 買収の経過問われても「差し控える」

法廷に行き詰まりの空気が漂うなか、弁護人が「異議あり。これ以上の質問は意味がないと考えます」と発言。裁判長が「質問の趣旨を変えてください」と検察官に促した。
だが、検察官が「区議に現金を配った経過は、秘書から報告を受けていたか?」と質問を変えても、被告は態度を変えず「お答えは差し控えます」と述べただけだった。
木村陣営の女性スタッフや元区議の板津道也被告に現金を供与したとされる件への質問にも、柿沢被告は「差し控える」を10回以上、連発した。

◆14:00 黙秘権を行使「いかような質問も…」

弁護人が、たまりかねたように発言を求めた。
「先程から、被告人は『お答えを差し控えたい』と申しており、これは実質的には黙秘権の行使だ。このまま継続するのは意味がない」と裁判長に訴えた。
裁判長が、柿沢被告に「これまでの回答は黙秘権の行使ということか?それとも質問によっては答えるか?」と尋ねた。
柿沢被告は「基本的には前者(黙秘権の行使)」とし、「今後いかようなご質問を受けても、冒頭に申し上げたこと以上はお答えを差し控えるということです」と答えた。
裁判長は「しゃべらないことは明らかですが。切り口の違う話があるならいいのですが、どうしますか」と検察官に水を向けた。
質問していた検察官は、隣席の別の検察官と相談した上で、質問を再開。「あなたは当初、全ての事実を否認していましたね?」と問うたが、柿沢被告は変わらず「お答えは差し控えさせていただきます」と返答。
「正直に答えることになった理由を聞いていいですか」と重ねて問われても、その答えは「差し控える」だった。

◆14:05 有権者への思いを問われても…

検察側の最後の質問はこうだった。
「あなたは、多くの人に迷惑を掛けたと言っていたが、いま、有権者に対して何か思うことはあるか」
ここまで即座に回答を拒否してきた柿沢被告。有権者への思いを問われると1、2秒だけ間を空けて、述べた言葉も同じだった。
「この場では、お答えを差し控えさせて頂きます」

◆14:07 40分で閉廷

柿沢被告は、裁判長に向かって一礼して弁護人の隣の席に戻った。
この日の被告人質問は午後4時半までの予定だったが、40分ほどで閉廷した。
論告求刑は3月1日に開かれる。
 

東京都江東区長選を巡る公選法違反事件 発端は、昨年4月の江東区長選で、初当選した木村弥生被告の陣営が選挙期間中に投票を呼びかける有料のインターネット広告を出したという疑惑だった。10月に東京地検特捜部が区長室などを家宅捜索。木村被告は辞職した(後に公選法違反の罪で在宅起訴)。江東区を地盤としていた元衆院議員の柿沢未途被告が、有料広告を提案したり、木村被告を当選させる目的で区議らへ現金を配布していたりした疑いが浮上。東京地検特捜部は12月、公選法違反の疑いで、柿沢被告を逮捕した。柿沢被告は、今年1月に公選法違反の買収などの罪で起訴され、2月に議員辞職。2月14日の初公判では、起訴内容を認めた。