「あの日のことは、心をくいで打たれるような拷問でしかない」 部活のノリが「性加害」に、法廷で裁かれた先輩4人(2024年12月28日『47NEWS』)

 あの日受けた屈辱が今でもフラッシュバックする。心に消えない傷を負わせた行為を、彼らは法廷で「その場のノリ」と表現した。東京地裁で開かれた強制わいせつ罪の公判。被告席に座ったのは、所属していた大学の部活の先輩男性4人だった。(共同通信=助川尭史)
▽たった一人の「いじられ役」
 被害に遭った20代の男性は、大学で体育会系の部活に入部した。同学年に男子部員はおらず、「いじられ役」として一学年上の先輩4人から威圧的に怒鳴られたり、飲酒を強要されたりする嫌がらせを受けていた。
 事件が起きたのは、2022年3月、大学2年の時だった。春合宿で訪れた東京都内の宿泊施設で深夜、突然部屋のドアが激しくたたかれた。応対するといきなり先輩たちに、両手足を持ち上げられ談話室まで連れて行かれた。
 床にあおむけにされて両手を押さえつけられた。着ていたパーカとパンツをずらされ、胸や陰部に歯磨き粉を塗られて触られた。泣いて抵抗しても、先輩たちは笑いながら写真を撮り続ける。悪夢のような時間は約40分も続いた。
 合宿が終わった後、突然涙が出るようになったり、食事をとれなくなった。部活をやめ、大学も休学した。ふさぎ込む日々を送る中、旧ジャニーズ事務所の性加害問題の報道に触れた。「自分が受けたのも性加害だったのかもしれない」。警察に被害を相談した結果、社会人になっていた先輩たちは2024年、強制わいせつ罪で逮捕、起訴された。
▽「その場のノリのじゃれ合いだった」
 9月上旬、東京地裁の証言台に被告として立った先輩の一人は「被害者の人生をめちゃくちゃにしてしまった」と消え入りそうな声で悔やんだ。日頃から、部員同士でふざけあうことはよくあったと証言。検察官がやり過ぎとは思わなかったのかと問いただすと「当時は思わなかった。やられた側の気持ちを考えていなかった」とうなだれた。
 一方、別の先輩は合宿での行為について、「よく覚えていない」と曖昧な受け答えに終始した。部活については「部員みんな、仲が良く楽しい場所だった」と話し、謝罪の言葉を口にしつつも「その場のノリでじゃれあうことはよくあった。被害者も楽しんでいると思ったし、その場で笑ってる人が実は苦しんでるのだと読み取るのは難しい」と釈明した。
 公判の終盤、被害者参加制度を利用した男性は現在の思いを法廷で語った。「あの日のことは、心をくいで打たれるような拷問でしかないです。今でもあなたたちの笑う顔や、当時の金髪姿が夢に出てきます。考えが至らなかったで済む話ではなく、覚えていないとするのは許せません。私は不安と絶望の中にいるのに、あなたたちは普通の生活を送れるのはあまりにも理不尽です。死ぬまで相応の罪を背負ってほしい」。傍聴人から見えないよう設けられたついたての向こうで、男性が発した声は怒りで震えているように聞こえた。
▽「対等でない被害者を一方的に辱めた」
 9月下旬の判決の日、黒のスーツ姿でそろって証言台の前に並んだ4人に言い渡されたのは、いずれも懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決だった。判決は合宿での行為を「強い屈辱感を与え、尊厳を踏みにじる悪質なもの」と強調。「自分たちの楽しみのために対等な関係にない被害者を一方的に辱めた意思決定は、下劣というほかない」と断じた。
 言い渡しを終えた裁判官は「あなたたちの行為に対する社会的な評価は判決の通り。認識を新たにして、自分がしたことに真摯に向き合ってほしい」と諭した。
 硬い表情で被告席に戻った4人は、検察官席の横に座る男性を覆う対面のついたてをぼうぜんと見つめていた。自分たちの手で「被害者」にしてしまった後輩には、もはや直接謝罪することもかなわなかった。
▽男性同士の性加害ならではの難しさとは
 男性の性被害は、長年理解されにくい状況が続いていた。刑法改正でそれまで被害者を女性に限っていた「強姦罪」から「強制性交罪」に変わったのは2017年のこと。2023年の改正刑法では「強制・準強制性交罪」が「不同意性交罪」、「強制・準強制わいせつ罪」は「不同意わいせつ罪」にそれぞれ統合された。法務省によると、昨年の統計で、男性が被害者の不同意性交事件の認知件数は100件、強制わいせつ事件は256件と決して少なくない。
 長年、男性のあらゆる悩み相談を受け付けている京都橘大の准教授(臨床心理学)は「男性同士の性加害は、性的欲求よりも、狭い組織の上下関係の中で支配欲求を満たすのが目的なことが多い。男は強くなければならないというジェンダー的な思い込みもあり、被害者が屈辱的な経験を受け入れられず、なかったことにしようとする傾向も強い」と指摘する。
 近年男性の性被害が社会的に認知される中、数十年胸にとどめていた被害を訴える相談がでてきているという。濱田准教授はこう呼びかける。「今回の裁判のケースも、法整備が進む前だったら事件化が難しかったかもしれない。『悪ふざけの延長』と過小評価するのではなく、勇気を持って被害を訴えることができるよう、社会の認識を変えていかないといけない」