いじめ情報開示 再発防止へ教訓とせよ(2024年2月19日『北海道新聞』-「社説」)

 札幌市立中1年の女子生徒がいじめを受け自殺した問題で、市教委は調査報告書を再公表した。当初の報告書はいじめの具体的内容など、公開すべき多くの情報が黒塗りにされ批判を浴びたからだ。
 黒塗りについて市教委は当初、「個人や学校の特定の恐れがあるため」と説明していた。だが、新たに開示された内容の大半は個人の特定につながらず、再発防止の観点からも欠かせぬ情報だった。
 自殺した生徒やその家族に寄り添っていたとは到底言えず、市教委の姿勢は極めて不誠実である。
 いじめ防止対策推進法の施行から10年が過ぎたが、教育委員会が法の趣旨に反して不適切に対応する例が各地で相次ぐ。真摯(しんし)に反省し、教訓としなければならない。
 黒塗りされた部分には「どれい扱いされる」などいじめの実態に加え、いじめた生徒への心境、悩みを受け止めず逆に叱責(しっせき)してきた教員への不信感など、女子生徒の悲痛な訴えが記載されていた。
 市教委は記者会見で、昨年12月に示した当初の報告書の黒塗り部分について、「推進法に示された再発防止、全容解明の視点が抜けていた」との釈明を繰り返した。
 市教委は昨夏、報告書案を両親に示した。両親は黒塗り部分の開示を再三求めたが聞き入れられなかったという。それどころか市教委は秋元克広市長に「黒塗りは保護者の意向」と説明したという。
 法の理念や両親の思いを軽視し、保身のため不都合な情報を隠したと見られても仕方がない。
 推進法は児童生徒の尊厳を守るため、いじめ対策の重要性をうたう。自殺や不登校に至る重大事態については、学校設置者らに速やかな調査の実施を求めている。
 文部科学省の指針は調査結果の公表が望ましいとし、個人情報を盾に説明を怠ってはならないと定める。市教委は黒塗りを決めた経緯も含め、対応を検証すべきだ。
 一方、旭川市教委はいじめによって市内の小中学生が不登校などになった事案計12件について、重大事態の要件を満たしていながら「他の複数の要因もある」として当初、認定しなかった。
 認定が遅れれば調査も進まず、被害者のケアは後手に回って心身の苦痛は増す。この間に関係する児童生徒が卒業すれば実態解明が一層難航し、再発防止に生かすこともできなくなる。
 学校や教委の不適切対応が後を絶たないのはなぜか。各教委はその点も検証し、道教委と結果を共有して対策を進める必要がある。