概要調査の候補地(北海道寿都町、神恵内村)
概要調査の候補地(北海道寿都町神恵内村

 原発は「トイレのないマンション」とよく例えられる。原発の運転によって排出される高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の選定に、めどが立っていないためである。

 トイレ(排出場所)がなければ核のごみは原発構内にたまる一方で、いずれ原発自体を動かせなくなり機能不全に陥るという道理。中国電力島根原発松江市鹿島町片句)が立地する山陰両県民にとっても、人ごとではない重い課題だ。

 選定に向け、核のごみの最終処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)が13日、北海道南西部の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で実施した全国初の文献調査の報告書案を、経済産業省の作業部会に提示した。寿都町の全域と神恵内村の一部が、続く概要調査に進むことが可能と判断。経産省の基準では、258万年前以降に活動した火山から約15キロ圏内は「適さない場所」とされており、神恵内村の候補地は南部の一部に限定された。

 選定に向けた大きな一歩に見えるが、実態は何も改善されていない。むしろ厳しさが表面化したように思える。それは両町村の首長の対応に見て取れる。

 2020年10月、文献調査に応募した寿都町の片岡春雄町長は取材に対し、概要調査に応じるかどうか明言を避けた上で、「(文献調査を受け入れる)他の候補地が出るまでコメントは控える。国は10カ所程度、候補地が出るように努力してほしい」と要望。神恵内村の高橋昌幸村長も「長い事業で、進むかどうかはその時々の住民の判断」と慎重な姿勢を示した。

 約4年の期間が想定される概要調査に進むには、地元の市町村長とともに知事の同意が必要だ。しかし、北海道には核のごみを「受け入れ難い」とする条例があり、鈴木直道知事は一貫して反対姿勢を崩していない。

 概要調査入りのハードルが高いのは両町村長も承知していたはずだ。それでも文献調査に応じたのは、人口減少や産業の衰退で財政が厳しい中、調査受け入れで得られる最大20億円の交付金が目当てだったことは容易に想像できる。概要調査の交付金は最大70億円に膨らむが、そこまで想定していただろうか。

 一方で、両町村以外の動きは停滞している。韓国を望む国境離島の長崎県対馬市では昨年9月、市議会が文献調査受け入れの請願を採択した。ところが、比田勝尚喜市長は「風評被害が起きれば20億円の交付金では代えられない」と反対した。

 対馬市は海外を含めた観光と水産を基幹産業とするだけに、風評被害は痛手。想定される損失と交付金を天秤(てんびん)にかけた上での「NO」という結論だった。

 概要調査を前に北海道の両町村長が慎重姿勢に転じたことを含め、これまで国内の原発関連施設を建設する際に取られてきた「交付金頼み」の立地推進策の限界を露呈した格好だ。

 国が本気で立地を目指すのなら、候補地を「ごみ捨て場」ではなく、「先端技術の集積地」などとしてイメージアップを図ることも有効だろう。

 鈴木知事が「北海道だけの問題ではない」と言うように、国内を巻き込んだ議論も必要だ。島根原発を抱える山陰両県をはじめ国内全体で機運を高めなければ、「トイレのないマンション」は到底解消できない。