原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下300メートルより深い地中に埋める最終処分地の選定作業が難航している。
青森県六ケ所村にある使用済み核燃料の再処理工場は完成が大幅に遅れ、国策である全量再処理計画は行き詰まっている。そもそも地震大国で原発を安全に運転できるのか疑問も拭えない。
再生可能エネルギーの導入が世界で加速する中、原発に頼らずに電力を安定供給する将来像は描けないのか。
原発の積極活用へ唐突に方針転換した政府への不信感は根強い。核のごみ問題を前に進めるためにも、原発政策について国民的な議論をすることが不可欠である。
核のごみ処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)が、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で実施した全国初の文献調査の報告書案を公表した。最終処分地選定への第1段階で、寿都町の全域と神恵内村の一部が次の概要調査の候補地となった。2017年に公表された「科学的特性マップ」とほぼ同じである。
これで選定作業が前進したとはいえない。概要調査に必要な北海道知事と両町村長の同意を得る見通しが立っていないからだ。
北海道は核のごみを「受け入れ難い」と宣言する条例を00年に制定し、鈴木直道知事は概要調査に反対する意向を繰り返し述べている。
報告書案の公表を受け、鈴木知事は「仮に概要調査に移行しようとする場合には、現時点で反対の意見を述べる考え」とのコメントを出した。今後は道議会や住民の意見を踏まえ、適切に対応したいとしている。
北海道の2町村以外に調査の受け入れはなく、両町村長も慎重な構えだ。
文献調査に対する賛否が市議会で拮抗(きっこう)した長崎県対馬市では昨年9月、比田勝尚喜市長が「市民の合意形成が不十分だ」などとして誘致反対を表明した。来月の市長選は最終処分場の誘致が最大の争点になりそうだ。
核のごみ処分場を巡って地域が分断されるのは好ましくはない。自治体任せにせず、科学的な見地から最終処分にふさわしい候補地を政府の責任で複数選び、提示する方法も検討すべきだ。
地層処分は北欧で先行している。地質が安定した北欧と比べ、日本周辺では地下でプレートがぶつかり、火山や地震活動が活発だ。地層処分の方針を抜本的に見直すべきだと指摘する専門家もいる。
10万年先まで安定した地層は日本列島にはないとの見方さえある。地層処分の安全性について慎重に検証し、国民に説明するよう求めたい。