核ごみ文献調査報告 国民的議論促し再検討を(2024年2月14日『北海道新聞』-「社説」)

 次の段階のボーリングなどを行う概要調査の候補地について、寿都町全域と神恵内村の南端、両町村の沿岸海底が該当するとした。
 概要調査への道を狭めたくないNUMOをはじめ国側の狙いが透ける。活断層の懸念などが払拭されていないのに結論ありきに映る。納得できるものではない。
 概要調査には地元首長と知事の同意が必要だ。片岡春雄寿都町長は、新たに調査を受け入れる自治体が現れることを条件に、住民投票で最終判断するとしている。
 鈴木直道知事は概要調査に反対する考えを繰り返し示している。
 両町村で概要調査を行う見通しは立っていない。他に文献調査に手を挙げる自治体もなく、選定プロセスは行き詰まっている。
 国が多額の交付金自治体を調査に誘導する手法に問題の根本がある。現状では北海道だけに押しつける形となりかねない。国は科学的な知見に基づきながら国民的議論を喚起しなければならない。
 仕切り直しが必要だ。
活断層の評価に疑問
 報告書案は、寿都町では最終処分場を避ける基準に該当する場所は確認されなかったとした。神恵内村は過去に噴火した積丹岳(後志管内積丹町)から半径15キロ以内の範囲を避ける場所とした。
 疑問なのは活断層の評価だ。
 国の地震調査研究推進本部は、寿都町から渡島管内長万部町までの断層帯についてマグニチュード(M)7・3程度以上の地震を引き起こす可能性を指摘する。
 断層帯を構成する寿都町内の断層も地震本部活断層として取り扱っているが、NUMOは情報が限られているとして概要調査の候補地から除外しなかった。
 寿都に加え、神恵内沖にも活断層が存在するとの指摘もある。
 能登半島地震は半島沖の活断層によって引き起こされたとみられる。NUMOは活断層を過小評価してはいないか。
 積丹岳にしても噴火範囲の想定が妥当なのか、はっきりしない。
 寿都町周辺の地下約30キロでは低周波地震の発生が確認されている。マグマや熱水が関係する可能性もあるが、概要調査の際の留意すべき事項とするにとどめた。
 解明されていない自然のメカニズムが多々ある以上、少しでも懸念があれば、候補地から除くのが本来の調査のあり方だろう。リスクを低く見積もる姿勢は危ういと言うほかない。
交付金で誘導問題だ
 世界で最終処分場にめどをつけたのは北欧の2カ国だけだ。来年操業開始予定のフィンランドの処分場周辺は十数億年前からの安定した岩盤で活断層も見られない。
 文献による調査で約100カ所を選び、5カ所に絞ってボーリング調査を行い建設地を決めた。
 一方、日本列島は北欧と異なり地殻変動が激しい。核のごみが無害化するまでの10万年もの間、地下に封じ込める地層処分は不可能だと指摘する専門家もいる。
 日本学術会議は廃棄物を地上に50年間暫定保管し、最終処分のための合意形成や適地選定、リスク評価を行うよう提言している。
 政府は昨年、最終処分を巡る基本方針を改定した。文献調査に応じれば最大20億円、概要調査に進めば最大70億円という従来の巨額交付金に加え、関係省庁による地域振興策をさらに手厚くした。
 過疎のマチにカネでつけ込むような手法は、科学的な調査をゆがめるのではないか。最終処分場を受け入れる自治体探しが最優先となり、肝心の安全性の追求が二の次になりかねない。
 地層処分は本当に妥当なのか、処分可能な場所はあるのか、もしあるなら最適地はどこなのか、多角的な検討が不可欠である。
原発推進政策見直せ
 岸田文雄政権は原発推進にかじを切った。しかし、最終処分場の見込みもないまま原発を動かして、廃棄物を増やし続けるのは無責任だと言わざるを得ない。
 そもそも最終処分は、原発から出る使用済み核燃料を再処理して再利用する核燃料サイクルが前提だが、必要となる高速炉は開発できず、事実上破綻している。
 国は核燃料サイクルに早く見切りをつけるべきだ。再生可能エネルギーを主力とする脱原発へと政策を転換する必要がある。
 道には核のごみを「受け入れ難い」とした2000年施行の核抜き条例がある。道民の明確な意思表示であり、NUMOも関係首長も改めて重く受け止めるべきだ。
 10万年先の姿は想像もつかない。未来の子孫たちの生存に禍根を残すことはあってはならない。