不在者投票のオンライン申請、7年たっても導入自治体は関東で28% 学生から改善求める声(2024年2月18日『東京新聞』)

 親元を離れて暮らす大学生らを対象に、総務省不在者投票のオンライン申請を導入して7年になるが、本紙が関東地方の1都6県を取材したところ、7割を超える自治体がいまだにオンライン申請を導入していない。システム改修に手間暇かかるのが主な理由だが、導入していない自治体では従来通りの煩雑な手続きが必要で、学生から敬遠されている。(山下洋史)

 不在者投票 国政と地方選の投開票日に、住民票のある自治体にいることができない人が利用できる制度。公示・告示日の翌日から投開票日の前日まで利用できる。住民票は大学近くに移したが、夏休みなどで帰省していて投票に行けない学生▽長期出張などで自宅から遠くにいる人―が主に利用する。期日前投票は、住民票のある自治体の投票所に足を運ぶ必要がある。

◆郵送は煩雑、投票諦める人も

 実家のある東京都武蔵野市を離れ、京都市に暮らす京都大2年の岡本大佑さん(19)。住民票は移さず、選挙権は武蔵野市に残したままだ。同市はオンラインを導入しておらず、岡本さんは「一票を投じたいが、手続きが複雑だとハードルが高くなる。私のように考える大学生は多い」と話す。
 2022年の参院選では不在者投票したが、手続きが煩雑で戸惑った。「郵送用の切手代がもったいなかった。オンラインなら必要ないのに」と振り返る。
 昨春の統一地方選では、親元を離れた大学生から投票に行けないという声があちこちで聞かれた。住民票を移して3カ月間は前の自治体でしか投票できないが、帰省できないからだ。
 不在者投票
(1)地元選挙管理委員会に郵送などで投票用紙を請求
(2)帰省先など指定した住所で投票用紙を受け取る
(3)帰省先など最寄りの選管に投票用紙を提出する
の手続きが必要。東京都で暮らし、愛知県の実家に帰省している場合、帰省先ですべてできる。
 オンライン請求できるのは(1)の投票用紙の請求。これまでは所定の用紙に必要事項を記入し、身分証明書のコピーなどを添付して選管あてに郵送していた。オンラインではネットで必要事項を記入し、身分証明書のデータを添付すれば済む。
 総務省は16年12月、省令を改正してオンライン申請を導入し、全国の自治体に通知した。
不在者投票用紙の請求ができる茨城県下妻市のLINE画面

不在者投票用紙の請求ができる茨城県下妻市のLINE画面

 茨城県下妻市は昨年12月10日の市議選からオンラインを導入。LINE(ライン)で投票用紙の請求を受け付けた。スマートフォンから名前、生年月日、現住所を入力すれば完了。不正対策としてマイナンバーカードの情報を読み取る。
 不在者投票は30件で、ライン申請は2件。市の担当者は「ニーズのあることが分かった。知らない人も多いので積極的に周知していきたい」と語る。
 本紙の取材では、関東地方の1都6県の自治体316のうち、ホームページなどで不在者投票のオンライン申請を受け付ける自治体は87と全体の28%止まりにすぎない。総務省は「有権者の利便性が高まるのでより浸透させてほしい」と話す。
 不在者投票を研究する一橋大大学院の小岩信治教授は「手続きが複雑で、投票を諦める学生も多い。どこの自治体もオンライン請求できるように足並みがそろえば、大学も自治体も周知しやすい」と期待する。