後見人を一度選任すると原則として利用をやめられない仕組みを改め、期間限定での利用を可能にすることなどを検討する。法制審での議論を踏まえ、政府は2026年度までに民法などの関連法改正を目指す。利用が伸び悩む実態を把握した上で、使いやすい制度へ改善を急ぎたい。

 成年後見制度は00年に導入された。親族のほか、専門的な知識を持つ弁護士や司法書士、福祉関係者らが後見人となって、不動産や預貯金の管理、福祉の利用手続きなどを包括的に行う制度である。

 認知症の高齢者は来年、65歳以上の5人に1人に当たる約700万人に達すると推計される。にもかかわらず成年後見制度の利用は22年末で24万5千人にとどまる。

 その背景には、後見人の権限が強過ぎる上、利用者の意思に沿わぬ形で物事を進められても交代させられない使い勝手の悪さがある。

 本人や家族から申し立てを受け、誰を選任するかは家庭裁判所の裁量ひとつ。面識のない弁護士や司法書士が選ばれるケースもあるという。主役である利用者が、後見人の意のままに操られる危険をはらむ。財産が目減りするとの理由で住宅のバリアフリー改修を拒んだり、本人が望まないのに施設に入所させられたりすることが実際に起きているという。

 そんな場合でも、利用者は後見人を途中で代えられない。解任できるケースは財産を横領した場合など、ごく一部に限られる。こうしたことも、制度利用の敬遠につながっているのだろう。

 法制審では、必要な時にだけ後見人の利用を可能にする制度の導入が検討される見通しだ。相続の取り決めが整うなどした節目で利用を打ち切ったり、専門職から家族へ後見人の交代を認めたりするなど、柔軟な運用を探ってもらいたい。

 後見人が全て決定するのでなく、本人の判断能力に応じて後見人の「代理権」を制限するかも議論の対象になるという。例えば、日常生活に関わる決定は本人に任せつつ、財産管理は弁護士、福祉施設へ入居する際は社会福祉士が受け持つといった形である。

 弁護士ら専門職が後見人になった場合、「報酬の支払いの負担が重い」との声もある。報酬の基準を明らかにすることが求められよう。

 利用者本位の制度にしていくには認知症などの状態をどう捉え、本人の意思をいかにくみ取るかが課題となる。地域住民や介護福祉サービスの力を借りる形態も検討してもらいたい。

 専門職の少ない地域では、介護事業者などが日常生活に必要な金銭管理をサポートしたり、一定の知識を習得した「市民後見人」の育成を進めたりする必要性が高まっている。司法と地域の連携を進める上でも、自治体の積極的な関わりが求められよう。