東京都千代田区が発注した工事の入札を巡り、官製談合防止法違反容疑で逮捕された元区議嶋崎秀彦容疑者(64)は、区の入札情報を漏らした工事業者から選挙で支援を受けていたとされる。事件からは、官公庁や企業が集まる首都の中枢で政官業がもたれ合う「千代田ムラ」の癒着の構図が垣間見える。(佐藤航)
◆江東区議逮捕で漏れた本音、1年半後はわが身
「えっ、あんなことで逮捕されちゃうのかよ」
区政関係者は2022年7月、嶋崎容疑者がそうつぶやいたことが忘れられない。江東区職員に入札情報を漏らすよう働きかけた見返りに、業者から現金を受け取ったとして江東区議があっせん収賄容疑で逮捕されたときのことだ。
それから1年半後の今年1月、嶋崎容疑者は区の行政管理担当部長だった吉村以津己容疑者(61)とともに、官製談合防止法違反(入札妨害)容疑で警視庁に逮捕された。
今月14日の再逮捕分を含め、事件の構図は共通する。警視庁によると、区発注工事の入札で、配管工事業者の依頼を受けた嶋崎容疑者が、吉村容疑者に入札情報を職員から聞き出すよう要請。吉村容疑者は職員から入手した情報を嶋崎容疑者に伝えたとされる。
業者側は、区内に営業拠点を持つ十数社でグループを組織する。嶋崎容疑者と関係が深い企業の元取締役が窓口となり、会員企業と情報共有していたという。
◆パー券「俺はたくさんさばける」
捜査関係者によると、業者側は選挙応援のほか、政治資金パーティー券の購入などで嶋崎容疑者を支えた。区政関係者によると、自民党都連のあるパーティーで嶋崎容疑者は約50枚のパーティー券を引き受けた。10枚ほどだった他の区議を大きく上回り「俺はたくさんさばける」と豪語していた。
嶋崎容疑者が入札情報を引き出そうとした相手は、吉村容疑者だけだったのか。吉村容疑者は逮捕前の昨年11月の取材に、行政管理担当部長に就任した直後、当時の副区長から「今までもそうしてきたから(嶋崎容疑者に)対応してくれ」と言われたと証言し、「嶋崎区議への情報提供は私の時代に始まったわけではない」と強調した。当時の副区長は取材に「全くそういうことはない」と否定している。
嶋崎容疑者は、自民系会派の幹事長や区議長を歴任した6期目の重鎮だった。企業に顔が広く、区のまちづくりで存在感を発揮。ある区議によると、住民らの反対が根強い再開発案件で、区民と行政が対話する場を設けたこともあったという。
区側が嶋崎容疑者に情報を漏らしていたことに、別の区議は「役人にとって頼れる存在だったことが背景にあるのではないか」と推察した。