自民の裏金調査結果(2024年2月17日)

自民の裏金調査結果 逃げの姿勢 信頼回復遠く(2024年2月17日『福井新聞』-「論説」)


 自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて公表したヒアリング調査結果は、実態解明に程遠いといわれても仕方がないものだ。なぜ、巨額の裏金をつくり、何に使ったのか。十分な説明をしない逃げの姿勢は明らかであり、国民の信頼回復には遠いと言わざるを得ない。

 自民党は何を報告したつもりだろう。

 安倍、二階両派の議員らを対象に、党が聞き取り調査した結果を開示した。裏金事件が発覚して以来、国民が抱いてきた疑念に報告書は何一つ答えていない。

 裏金工作はいつ始まったか―。報告書は〈判然としない〉とした上で、20年以上前から行われていたと“推定”している。

 それなら、清和政策研究会(現安倍派)の会長を務めた森喜朗氏や小泉純一郎氏にも経緯を質(ただ)すべきなのに、対象としなかった。

 派閥から受領した裏金を使った議員は53人いた。使い道については〈会合費、懇親費用、車両購入費…〉と大ざっぱに15項目に分類しただけ。個々の議員が何に幾ら使ったかは伏せられ、領収書の有無も曖昧にしている。

 逆に裏金を「使わなかった」とした31人のうち13人が〈不明朗な金銭だから〉を理由に挙げた。違法性を認識し、派閥会長に返金を申し出たとの証言もあった。

 安倍派は一時、裏金づくりの廃止を決めながら、後の幹部協議で復活したと指摘されてきた。今回の調査を基に検証を深めれば、幹部の関与に迫り得たろう。自民はそれもせず、議員の証言を記すにとどめている。

 外部の弁護士が同席したとはいえ、聞き取りに当たったのは森山裕総務会長や小渕優子選対委員長らだった。小渕氏自身、過去の政治資金不正の責任が未清算のままで、最近も政治とカネの疑惑が浮上している。同僚議員を厳しく追及できたのか。

 証言の真偽を確かめもせず、報告書は〈政治活動以外に用いた、違法に使用した、と述べた者は一人もいなかった〉と追認した。おざなりな調査を物語る。

 衆院政治倫理審査会を巡り、与野党は幹事懇談会を開いた。野党は裏金に関わった安倍、二階両派の衆院議員51人の出席を求め、与党は回答を保留している。

 自民が自ら実態を解明できない以上、要求に応じ、出席する議員に公開審査にも同意するよう指示するほかあるまい。

 岸田文雄首相は「説明責任は今回の調査をもって果たされるものではない」と言う。安倍派の萩生田光一政調会長も「明確な基準が公表され、対象になるなら(政倫審への)出席を拒むものではない」と言明している。

 繰り返す。言葉を飾ったところで、行動が伴わなければ裏金問題は終わらない。ごまかしは利かないことを肝に銘じるべきだ。

 

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自民党内部調査 疑心はかえって深まった(2024年2月17日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 自民党は何を報告したつもりだろう。

 安倍、二階両派の議員らを対象に、党が聞き取り調査した結果を開示した。裏金事件が発覚して以来、国民が抱いてきた疑念に報告書は何一つ答えていない。

 裏金工作はいつ始まったか―。報告書は〈判然としない〉とした上で、20年以上前から行われていたと“推定”している。

 それなら、清和政策研究会(現安倍派)の会長を務めた森喜朗氏や小泉純一郎氏にも経緯を質(ただ)すべきなのに、対象としなかった。

 派閥から受領した裏金を使った議員は53人いた。使い道については〈会合費、懇親費用、車両購入費…〉と大ざっぱに15項目に分類しただけ。個々の議員が何に幾ら使ったかは伏せられ、領収書の有無も曖昧にしている。

 逆に裏金を「使わなかった」とした31人のうち13人が〈不明朗な金銭だから〉を理由に挙げた。違法性を認識し、派閥会長に返金を申し出たとの証言もあった。

 安倍派は一時、裏金づくりの廃止を決めながら、後の幹部協議で復活したと指摘されてきた。今回の調査を基に検証を深めれば、幹部の関与に迫り得たろう。自民はそれもせず、議員の証言を記すにとどめている。

 外部の弁護士が同席したとはいえ、聞き取りに当たったのは森山裕総務会長や小渕優子選対委員長らだった。小渕氏自身、過去の政治資金不正の責任が未清算のままで、最近も政治とカネの疑惑が浮上している。同僚議員を厳しく追及できたのか。

 証言の真偽を確かめもせず、報告書は〈政治活動以外に用いた、違法に使用した、と述べた者は一人もいなかった〉と追認した。おざなりな調査を物語る。

 衆院政治倫理審査会を巡り、与野党は幹事懇談会を開いた。野党は裏金に関わった安倍、二階両派の衆院議員51人の出席を求め、与党は回答を保留している。

 自民が自ら実態を解明できない以上、要求に応じ、出席する議員に公開審査にも同意するよう指示するほかあるまい。

 岸田文雄首相は「説明責任は今回の調査をもって果たされるものではない」と言う。安倍派の萩生田光一政調会長も「明確な基準が公表され、対象になるなら(政倫審への)出席を拒むものではない」と言明している。

 繰り返す。言葉を飾ったところで、行動が伴わなければ裏金問題は終わらない。ごまかしは利かないことを肝に銘じるべきだ。

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(2024年2月17日『新潟日報』-「日報抄」)

 子どもの頃、友達やきょうだいが悪さをした際に「連帯責任!」と言われて罰せられ、理不尽な思いをした。そんな経験をした人もいるだろう。学生スポーツでも一部選手の不祥事でチーム全体が大会への出場を取りやめることがある

▼犯罪については、本人だけでなく周囲にも累が及ぶことが古くからあった。古代の律令(りつりょう)では、謀反など重大犯罪の場合に犯罪者の近親も処罰対象になった。官吏が業務上の罪を犯した際は、関連業務に従事していた人も連帯責任を問われた

▼前者を「縁坐(えんざ)」、後者を「連坐(れんざ)」と呼んだという。それぞれ「縁座」「連座」とも表記される。犯罪の抑止効果が期待されたらしい。一方、現代では法律に基づく懲罰については、個人の行為の責任は本人だけが負うべきだという考えが定着している

▼その例外が連座制だ。公選法で導入されている。候補者と一定の関係がある人が買収などの選挙違反で刑が確定した場合、候補者本人の関与がなくても責任を問える

自民党の裏金問題が浮上して以降、政治資金規正法にも導入を求める声が高まっている。収支報告書への不記載といった法令違反があっても、政治家本人の責任を問うには具体的な指示の立証など高いハードルがあるからだ

▼政治家と秘書の一体感は極めて強い。選挙に加え、カネの管理についても連座制を求める声が上がるのももっともだ。自民党内には難色を示す向きもあるようだが、導入を見送れば同僚議員も連帯責任を負うことになるのでは。

 

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自民の裏金調査/自浄能力の欠如が鮮明に(2024年2月17日『神戸新聞』-「社説」)

 自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて、派閥からの資金還流を政治資金収支報告書に記載していなかった議員ら91人への聞き取り調査の結果を公表した。

 パーティー券収入の還流を把握していたのは32人に上り、うち安倍派に所属する11人は収支報告書への不記載も認識していた。「派閥事務局から報告する必要がないと言われたのを信じていた」「派閥からの説明で合法だと思った」などと述べている。自分は悪くないと言わんばかりの釈明には、立法府の一員としての自覚と順法精神が感じられない。

 還流資金を使ったのは53人。使い道として、会合費、懇親費、書籍代、車両購入、手土産代、次のパーティー券購入費などが挙がった。「政治活動以外に用いた」「違法な使途に使った」との回答はゼロだった。


 だが領収書のない支出もあり、本当に政治活動に関連する費用だったかははっきりしない。しかも結果公表は匿名のため、具体的に誰が、何に、いくら使ったのかは不明だ。疑念を払拭するには全く不十分な調査と言わざるを得ない。

 異様なのは、還流された金を使わなかったと答えた31人のうち13人が「不明朗な金銭だった」と認識していた点である。「気持ち悪いと思った」「裏金みたいなものではないか」などと感じて、手をつけずに保管していたというのだ。

 保管したままなら個人の収入とみなされ課税対象となる可能性があり、脱税の疑いも指摘されている。

 多くの議員が違法性をうすうす察しながら、派閥の指示には逆らえないと目をつぶり、裏金づくりに加担してきたことになる。おかしいことをおかしいと言い出せない組織の体質と自浄能力の欠如が鮮明になったと言える。

 外部弁護士がまとめた調査報告書は、裏金づくりが始まった時期や動機は「判然としない」と結論付けた。ただ、安倍派については場合によっては20年以上前から、二階派では少なくとも10年前から今の仕組みになったとも言及した。

 再発防止策として、不正行為へのペナルティー強化、外部通報窓口の設置、金の流れを可視化する業務のデジタル化などを提言している。


 しかし、いくら法改正を重ね、厳罰化を進めても、法を守るべき政治家の意識が低いままでは同じ過ちが繰り返されるだろう。


 内部調査には限界がある。自民は野党が求める政治倫理審査会の開催に応じ、裏金づくりに関わった派閥幹部らが出席して疑問に答えるべきだ。岸田文雄首相は党総裁の責任でうみを出しきり、国民の政治不信に歯止めをかけねばならない。

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裏金議員の調査 実態解明にほど遠い(2024年2月17日『山陰中央新報』-「論説」)

 


自民党が公表した派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る内部調査結果の写し

 これで実態を把握したとでも言うつもりだろうか。アンケートは形式的な設問だけ、議員への聞き取りも身内の党執行部ではお手盛り批判は免れず、「調査」という名に値しない。

 自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件で、全議員アンケートに続き、政治資金収支報告書に不記載があった安倍、二階両派(解散を決定)議員ら計91人に実施したヒアリング調査の結果を公表した。

 2022年までの5年間で収支報告書への不記載があったとアンケートに答えたのは85人(うち現職は82人)で、総額は約5億8千万円。

 聞き取り調査の報告書によると、派閥から還流されたカネを議員自ら認識していたのは32人で、うち11人は収支報告書への不記載を認識していた。安倍派では派閥の事務局から収支報告書に記載しないよう指示されたと多くの議員が説明。違和感を抱き記載を申し出た議員も複数おり、本当に事務局だけの判断だったのか、疑問が残る。

 派閥の幹部も含め証言はすべて匿名のため、個々の議員の裏金への認識や関与の度合いが分からず、真相の解明にはほど遠い内容だ。

 安倍派の還流システムは、パーティー券の売り上げをいったん派閥に渡し、ノルマ超過分を現金でキックバックする方式と、ノルマ分だけ派閥に納め、残りは議員側が保管する中抜きの二つ。後者のケースは32人に上っており、派閥のパーティー券を売りながら、自身の懐に入れる行為は極めて悪質だ。

 使途についても会合費、人件費、手土産代などから、車両購入費まで多岐にわたり、いかに重宝していたかがうかがえる。一方、報告書は、遅くとも十数年前、場合によっては20年以上前から行われていた可能性に言及した。組織的な裏金づくりの闇は深く、19年前には一部で報道されていながら、漫然と継承してきた罪は重い。

 前身の森派の会長を務め、安倍派に強い影響力を持つ森喜朗元首相は調査の対象外で、今回の調査はアリバイづくりと指摘されても仕方あるまい。ヒアリングで安倍派議員からは、幹部の責任を問う声も多かったという。

 裏金づくりの核心部分は、なぜ収支報告書への不記載を指示したのか、違法な処理を続けたことに派閥幹部の関与はなかったのか、還流された裏金の詳細な使途―である。これらが何一つ解明されていないのだ。

 安倍派の議員は一斉に収支報告書の訂正を総務省などに届け出たが、「不明」としたままの支出や繰越金を計上するケースが続出、民間企業ではあり得ない会計処理がまかり通っている。これを許せば、政治とカネに絡む不祥事を絶つことなどできるわけはない。

 同時並行的に政治資金規正法の改正など再発防止策を与野党論議するにしても、実態の把握が「抜け道」をふさぐ大前提となることを忘れてもらっては困る。

 国会は、疑惑をもたれた議員が自ら弁明し、責任を明らかにする場として衆参両院に政治倫理審査会を設置している。多額の「使途不明金」を抱えながら、説明から逃げ回るのであれば国会議員としての適格性が疑われる。

 少なくとも安倍派の幹部や二階俊博元幹事長らに国会で説明させ、メスを入れ、積年のうみを出すときだ。

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自民の裏金調査 身内では核心に迫れない(2024年2月17日『西日本新聞』-「社説」)

 いつから、何のために裏金づくりを続けていたのか。肝心なことは何も明らかにならなかった。

 自民党は派閥の政治資金パーティーの裏金事件を受け、政治資金収支報告書に不記載があった国会議員ら91人の聞き取り調査結果を公表した。

 対象は組織的な裏金づくりをした安倍派や二階派の議員ら85人と他派閥の幹部で、党執行部と弁護士が聴取した。

 報告書には対象議員の名前が列記されているが、発言内容は全て匿名となっている。裏金問題の全容把握には程遠いと言うほかない。

 自民党が並行して進めた全所属国会議員へのアンケートも形ばかりだ。2018~22年の収支報告書に不記載があったかどうかと、年別の不記載額しか問うていない。

 聞き取り調査によると、22年までの5年間の不記載総額は約5億7949万円で、還流資金の不記載を認識していた議員もいた。

 53人は還流資金を使ったと答えた。使途は書籍代、車両購入費、人件費、手土産代などの項目を挙げただけで、具体的なことは分からない。その上で「政治活動以外に用いた」「違法な使途に使用した」と答えた議員は一人もいなかったと結論付けた。

 そもそも自己申告のアンケート回答や、身内による聞き取りでは問題の核心には行き着くまい。野党が「お手盛り調査だ」と批判するだけでなく、自民党内から「調査に本気度を感じない」と冷ややかな声が漏れるのも当然だ。

 安倍派では22年のパーティーに際し、会長だった安倍晋三元首相が収入の還流をやめると決めたが、安倍氏が死去した後に方針が翻った。

 この経緯について、安倍派の複数の議員が「誰がその決定をしたのかについては誰も語らない」などと不信感を口にし、幹部の責任を問う声が出ている。

 経緯を知る立場にある安倍派の歴代事務総長ら幹部に聞き取りをしたものの、不明確なままだ。

 一方、安倍派で裏金づくりが始まったのは「遅くとも十数年前」「場合によっては20年以上前」とみられる。

 発端と趣旨を明らかにするには、かつて会長を務め、今も安倍派議員に影響力を残す森喜朗元首相の調査が欠かせない。党総裁の岸田文雄首相が指導力を発揮する場面だ。

 アンケートと聞き取りを通じてはっきりしたのは、自民党に自浄能力がないことだ。第三者が調査しない限り、裏金の真相には迫れない。

 岸田首相は「今後とも説明責任を果たしていくように求めていく」と言うばかりだ。首相が考える説明責任とは一体何なのか。

 野党は国会の政治倫理審査会に安倍派幹部や二階俊博元幹事長らが出席し、説明することを要求している。

 国民は調査に納得していないだろう。自民党は政倫審への出席を拒むべきではない。

 

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自民党裏金問題 実態解明にほど遠い(2024年2月17日『佐賀新聞』-「論説」

 これで実態を把握したとでも言うつもりだろうか。アンケートは形式的な設問だけ、議員への聞き取りも身内の党執行部では、お手盛り批判は免れず、「調査」という名に値しない。

 自民党は、派閥の政治資金パーティー裏金事件で、全議員アンケートに続き、政治資金収支報告書に不記載があった安倍、二階両派(解散を決定)議員ら計91人に実施したヒアリング調査の結果を公表した。

 2022年までの5年間で収支報告書への不記載があったとアンケートに答えたのは85人(うち現職は82人)で、総額約5億8千万円。

 聞き取り調査の報告書によると、派閥から還流されたカネを議員自ら認識していたのは32人で、うち11人は収支報告書への不記載を認識していた。安倍派では派閥の事務局から収支報告書に記載しないよう指示されたと多くの議員が説明。違和感を抱き記載を申し出た議員も複数おり、本当に事務局だけの判断だったのか、疑問が残る。

 派閥の幹部も含め証言はすべて匿名のため、個々の議員の裏金への認識や関与の度合いが分からず、真相の解明にはほど遠い内容だ。

 安倍派の還流システムは、パーティー券の売り上げをいったん派閥に渡し、ノルマ超過分を現金でキックバックする方式と、ノルマ分だけ派閥に納め、残りは議員側が保管する中抜きの二つ。後者のケースは32人に上っており、派閥のパーティー券を売りながら、自身の懐に入れる行為は極めて悪質だ。

 使途についても会合費、人件費、手土産代などから、車両購入費まで多岐にわたり、いかに重宝していたかがうかがえる。一方、報告書は、遅くとも十数年前、場合によっては20年以上前から行われていた可能性に言及した。組織的な裏金づくりの闇は深く、19年前には一部で報道されていながら、漫然と継承してきた罪は重い。

 前身の森派の会長を務め、安倍派に強い影響力を持つ森喜朗元首相は調査の対象外で、今回の調査はアリバイづくりと指摘されても仕方あるまい。ヒアリングで安倍派議員からは幹部の責任を問う声も多かったという。

 裏金づくりの核心部分は、なぜ収支報告書への不記載を指示したのか、違法な処理を続けたことに派閥幹部の関与はなかったのか、還流された裏金の詳細な使途―である。これらが何一つ解明されていないのだ。

 安倍派の議員は一斉に収支報告書の訂正を総務省などに届け出たが、「不明」としたままの支出や繰越金を計上するケースが続出、民間企業ではあり得ない会計処理がまかり通っている。これを許せば、政治とカネに絡む不祥事を絶つことなどできるわけはない。

 同時並行的に政治資金規正法の改正など再発防止策を与野党論議するにしても、実態の把握が「抜け道」をふさぐ大前提となることを忘れてもらっては困る。

 国会は、疑惑をもたれた議員が自ら弁明し、責任を明らかにする場として衆参両院に政治倫理審査会を設置している。多額の「使途不明金」を抱えながら、説明から逃げ回るのであれば国会議員としての適格性が疑われる。少なくとも安倍派の幹部や二階俊博元幹事長らに国会で説明させ、メスを入れ、積年のうみを出すときだ。(共同通信・橋詰邦弘)

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自民「裏金」聞き取り 疑念残るお手盛り調査(2024年2月17日『沖縄タイムス』-「社説」)


 なぜ巨額の裏金をつくったのか、裏金の詳細な使途は―。自民党の調査は、有権者の疑問に真摯(しんし)に答える中身ではなく、真相解明には程遠い。

 自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件で、全議員アンケートに続き、政治資金収支報告書に不記載があった安倍、二階両派の議員ら計91人に実施した聞き取り調査の結果を公表した。

 2018~22年の5年間で不記載があったとアンケートに答えたのは85人(うち現職は82人)で、総額約5億8千万円。聞き取り調査では、パーティー券売り上げの資金還流を認識していた議員らは32人に上り、うち11人は不記載も認識していた。

 アンケートの質問項目は収入の記載漏れの有無と、記載漏れがあった際の金額の記入を求めた2問のみ。聞き取り調査は党執行部が議員1人当たり30分程度の聴取をしただけで、派閥の幹部も含め証言は全て匿名だ。個々の議員の裏金への認識や関与の度合いは分からない。

 還流された金を使用したとする安倍、二階両派計53人の回答の内訳を見ると、懇親費用、手土産代、書籍代、翌年以降の派閥のパーティー券購入費用など15項目と多岐にわたる。いかに重宝していたかが分かるが、どの議員が何に使ったのかは不明だ。

 現役国会議員の逮捕や派閥の解散に発展している中で実態に迫ることなく、政治不信は強まるばかり。

 自民党の自浄能力のなさを露呈した「お手盛り」調査だと言わざるを得ない。

 第三者機関による真相解明を求める。

■    ■

 組織的に裏金づくりが行われていたことは明白だ。

 聞き取り調査の報告書によると、安倍派では事務局から不記載の指示があったと多くの議員が説明している。不記載は20年以上前から続いていたという。

 安倍派議員からは幹部の責任を問う声も多い。報告書には「当選した時からこのような制度となっており、こういうものなんだと思っていた」「派閥から記載するなと言われたものを記載するわけがない」などの証言もある。

 安倍派幹部がどう関与したのかを解明することが根本的な再発防止策の前提になるが、前身の森派の会長を務めた森喜朗元首相には、事実確認すらしていない。

 野党側は安倍、二階両派幹部に国会の政治倫理審査会への出席を求めている。森元首相や関係国会議員は公開の場で説明責任を果たすべきだ。

■    ■

 岸田文雄首相は施政方針演説で「『政治は国民のもの』との立党の原点に立ち返って自民党は変わらなければならない」と述べたが、この報告書を評価している時点で、その言葉は空虚に響く。

 裏金事件を巡り、還流分が課税対象とならないことに、所得税の確定申告が始まった納税者からは「裏金を受け取りながら納税しなかった議員は早く辞めるべきだ」などと批判の声が噴き出している。

 国民の感覚との大きなずれはどこから来るのか。積年のうみを出し切らなければ、政治の信頼回復はあり得ない。

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裏金事件真相解明(2024年2月17日『しんぶん赤旗』-「主張」)

国会での証人喚問 待ったなし

 自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件の徹底解明で、国会の果たす役割が重要になっています。自民党は所属全国会議員対象のアンケート調査に続き、15日には政治資金収支報告書に不記載のあった安倍派や二階派の国会議員らから聞き取った調査内容を公表しました。裏金化の時期や金額など新たに判明した部分はあるものの、国民が一番疑問に思っている裏金づくりの目的や使い道などは明らかにされていません。国会出席に強制力をもち、うその証言をした場合、偽証罪に問われる証人喚問で関係者をただすことは待ったなしです。

20年以上前の可能性

 聞き取り調査は森山裕自民党総務会長を責任者とした調査チームが行い、同調査に参加した外部の弁護士が報告書をまとめました。証言内容は全て匿名ですが、パーティー券収入のキックバック(還流)など裏金づくりの開始時期について、安倍派では「遅くとも10数年前から行われていた可能性が高い(場合によっては20年以上前から行われていたことも窺(うかが)われる)」、二階派でも「少なくとも10年前からは今の仕組みや処理になっていた」と長期にわたり組織的に行われていた実態を認めました。

 2004年9月10日付本紙は、安倍派の前身の森派(会長・森喜朗元首相)が、所属議員に「もち代」「氷代」と呼ばれる年間1億円の手当を出しながら5年にわたり収支報告書に記載していなかったと報じました。今回の報告書は、この報道を裏付けるものです。この点だけでも、会長だった森氏をはじめ当時の派閥幹部の証人喚問が不可欠です。

 重大なのは裏金調査と言うものの、誰が、いつ、何の目的で裏金システムをつくり、何に使ったのか究明されていないことです。報告書は裏金の「主な使途」として「会合費」「懇談費用」「人件費」「手土産代」など15の実例を列挙しましたが、相手先は不明です。キックバックについて、派閥の事務局から収支報告書に記載しないようにとの指示があったとしていますが、誰が指示したのか明らかにしていません。19年と22年の参院選時に安倍派の改選議員の裏金額が増え、選挙買収に使われたのではないかとの疑念にも答えていません。

 報告書は結論部分で、「自らが知る限りのことを詳(つまび)らかにし、更なる説明責任を果たしていくことが求められる」と議員個人に説明を促しています。今回の調査結果が極めて不十分であると告白したものです。「説明責任」を繰り返す岸田文雄首相は、自民党総裁として、調査対象にした国会議員らが国権の最高機関である国会の場で実態を明らかにするよう指示すべきです。

国政調査権の行使を

 政治的・道義的な疑惑がもたれた議員らが説明する場として、衆参両院の政治倫理審査会(政倫審)があり、いま開催をめぐり与野党協議が行われています。証人喚問のような出席の強制力はありませんが、世論で自民党を包囲し真相解明の第一歩として最低限、開く必要があります。同時に日本共産党は、憲法62条に定められた国政調査権を国会が行使し、裏金づくりに関与した議員らの証人喚問を行うよう求めています。まさにいま、国会の出番です。