国会の政治倫理審査会は、疑惑の実態解明に向けた第一歩に過ぎない。その出席にさえ難色を示すのでは、説明責任を果たすつもりがないと見なされても仕方ない。
自民党は派閥裏金事件で、安倍派と二階派の議員らを対象にした聞き取り調査の結果を公表した。
派閥パーティー収入の還流などを受けた85人のうち32人はそれを認識し、11人は政治資金収支報告書への不記載も知っていた。「不明朗な金銭」であることなどを理由に、31人は使っていなかった。
多くの議員や秘書が疑問を持ちながら、派閥の指示や慣習に従った様子がうかがえる。
安倍派幹部が詳細を語らず、責任を取ろうとしないことに派閥所属議員から不満の声が相次いでいることも浮かび上がった。
一方、回答は匿名の上、裏金づくりの経緯や使途の詳細などは、依然として不明のままだ。
全所属議員を対象としたアンケート結果に続き、自民党の自浄能力のなさが明らかになった。
安倍派幹部や二階俊博元幹事長らは、野党が要求する政倫審に進んで出席すべきだ。
政倫審は、ロッキード事件の反省から設置された機関で、議員が政治的、道義的に責任があるかどうかを審査する。強制力はなく、原則非公開で、偽証罪も適用されない。このため、「みそぎ」を済ませるための「疑惑議員の駆け込み寺」と長らく批判されてきた。
ただ、裏金事件で安倍派幹部らはいまだに国会で説明していない。異常な事態である。今回は最低限、国民に広く公開する形で開催すべきだ。
国会に関係者の出席を求めるにはこの他、憲法の国政調査権に基づく参考人招致や証人喚問という方法がある。参考人招致は任意だが、証人喚問は正当な理由なく出席を拒んだり、うその証言をしたりすれば、刑事罰が科される。
政倫審でもなお、実態解明が不十分に終わった場合には、証人喚問などの手段を検討すべきだ。
裏金作りは、森喜朗元首相の派閥会長時代から続いていたといわれる。森氏の国会招致も必要だ。
疑惑解明に国会がどう取り組むのか、国民は注視している。与野党には、政治の信頼を回復する重い責任がある。
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自民不記載報告書 政倫審の開催で合意せよ(2024年2月17日『産経新聞』-「主張」)
自民党は派閥パーティー収入不記載事件に関する聞き取り調査の報告書を公表した。91人の国会議員らに聴取したものだが、問題の全容を解明したとは言い難い。
令和4年、派閥会長だった安倍晋三元首相は還流の中止を求めたものの、死去により不正を断ち切れなかったことがすでに分かっている。だが、報告書は「当時の幹部が何らかの問題意識を持っていた可能性は払拭できない」と記すにとどまった。
還流自体は違法ではないが、派閥が法に触れる不記載をさせるに至った理由や経緯は、今回の報告書では分からない。安倍派や二階派の幹部らは、国会の政治倫理審査会(政倫審)や記者会見などで説明を尽くす必要がある。
弁護士がまとめた報告書は「法令順守の継続と違反に対する厳罰化」などを提言している。こうした取り組みを進める前提として、事実関係を明らかにすることが欠かせない。
にもかかわらず、16日に行われた衆院政倫審の幹事懇談会で開催の合意に至らなかったのは、どうしたことか。
平成30年~令和4年までの5年間に政治資金収支報告書への不記載があったのは85人で、総額約5億7949万円に上った。「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにする」ことを目的にした政治資金規正法を軽んじたもので、政治不信を招いてしまった。
政倫審は本人の申し出により審査が可能となるほか、委員の3分の1以上が申し立て、過半数が賛成すれば審査を求めることができる。原則非公開だが、本人が公開を求めれば、その意向は尊重される仕組みだ。派閥幹部らは公開による審査を自ら申し出るのが筋である。自民には自浄能力を発揮することが求められる。
野党側の対応にも首をかしげる点がある。幹事懇で立憲民主党などは安倍派、二階派の衆院議員51人の出席を求めた。現実的な要求とはいえない。
野党の中には、自民が政倫審に応じなければ、6年度予算案の審議にも影響が出ると牽(けん)制(せい)するなど、国会運営の駆け引きに使おうとする動きがみられる。与野党は能登半島地震への対応が急務のときに、予算案の審議をいたずらに遅滞させることは慎むべきだ。