介護施設の虐待/組織全体で防ぐ体制整えよ(2024年2月17日『福島民友新聞』-「社説」)

 介護施設での高齢者への虐待に歯止めがかからない。原因や防げなかった理由を詳細に分析し、再発防止に生かすことが急務だ。

県内で2022年度に確認された特別養護老人ホームや、グループホームなどで働く養介護施設従事者による高齢者の虐待の相談・通報件数は32件、実際に虐待と判断された件数は9件だった。いずれも2年連続の増加で、過去最多の件数となった。
 虐待を受けた利用者はほぼ全員が、日常生活で全面的にサポートが必要な要介護3以上だった。認知症の症状がみられる人が多い。

 県によると、虐待の種別は、暴言や威圧的な発言などによる「心理的虐待」が最多で、「身体的虐待」「介護等放棄」「性的虐待」と続いた。発生要因では、職員の知識や介護技術などに問題があったり、チームでのケア体制が不十分だったりしたことが多かった。

 県は新型コロナウイルスの対応で職員の負担が増えたことなども背景にあるとみている。しかしケアを専門とする職員が利用者の尊厳を傷つける行為はいかなる理由であれ、正当化できない。

 経験や技術の不足から虐待などの行為が起きるのは、職員個人の問題に加え、施設や事業所の責任も大きい。施設管理者は猛省し、指導・監督する県、市町村と、組織や運営方法に構造的な問題がなかったかを検証する必要がある。

 大半の施設では職員が利用者に寄り添い、懸命に介助している。しかし慢性的な人手不足に陥っている現場は少なくない。業務が過重で、職員が悩みやストレスを抱えたり、離職などで人の出入りが激しく、職場のコミュニケーションが不足したりしているようであれば改善しなければならない。

 新年度から、全ての介護サービス事業者に、虐待防止の措置が義務付けられる。指針の整備や虐待防止の委員会設置のほか、介護に従事する職員は必要な基礎知識などを習得する研修を受講することが求められる。必要な措置を講じなかった事業者は、介護報酬が減額される。

 職員が研修などで知識や技術を高めることは個人だけでなく、組織としても虐待防止に有効な取り組みだ。各事業者は職員が研修を受講する機会を確保してほしい。

 政府は介護分野で働く人の賃上げに向け、介護報酬の改定を決めたが、他産業に比べ十分なレベルではない。利用者やその家族らが安心して託せる環境を整えるには人手不足の解消が前提となる。政府や事業者は引き続き、職員の待遇改善に力を入れるべきだ。