自民と裏金(2024年2月16日)

自民党の裏金調査結果 真相の解明には程遠い(2024年2月16日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』-「社説」

 これで実態を把握したとでも言うつもりだろうか。アンケートは形式的な設問だけ、議員への聞き取りも身内の党執行部では、お手盛り批判は免れず、「調査」という名に値しない。

 自民党は、派閥の政治資金パーティー裏金事件で、全議員アンケートに続き、政治資金収支報告書に不記載があった安倍、二階両派(解散を決定)議員ら計91人に実施したヒアリング調査の結果を公表した。2022年までの5年間で収支報告書への不記載があったと答えたのは85人(うち現職は82人)で、総額約5億8千万円に上る。

 聞き取り調査の報告書によると、派閥から還流されたカネを議員自ら認識していたのは32人で、うち11人は収支報告書への不記載を認識していた。安倍派では派閥の事務局から収支報告書に記載しないよう指示されたと多くの議員が説明。違和感を抱き記載を申し出た議員も複数おり、本当に事務局だけの判断だったのか、疑問が残る。派閥の幹部も含め証言はすべて匿名のため、個々の議員の裏金への認識や関与の度合いが分からず、真相の解明には程遠い内容だ。

 安倍派の還流システムは、パーティー券の売り上げをいったん派閥に渡し、ノルマ超過分を現金でキックバックする方式と、ノルマ分だけ派閥に納め、残りは議員側が保管する中抜きの二つ。後者のケースは32人に上っており、派閥のパーティー券を売りながら、自身の懐に入れる行為は極めて悪質だ。

 使途についても会合費、人件費、手土産代などから、車両購入費まで多岐にわたり、いかに重宝していたかがうかがえる。組織的な裏金づくりの闇は深く、19年前には一部で報道されていながら、漫然と継承してきた罪は重い。

 前身の森派の会長を務め、安倍派に強い影響力を持つ森喜朗元首相は調査の対象外で、今回の調査はアリバイづくりと指摘されても仕方あるまい。ヒアリングで安倍派議員からは幹部の責任を問う声も多かったという。

 裏金づくりの核心部分は、なぜ収支報告書への不記載を指示したのか、違法な処理を続けたことに派閥幹部の関与はなかったのか、還流された裏金の詳細な使途―である。これらが何一つ解明されていないのだ。

 安倍派の議員は一斉に収支報告書の訂正を総務省などに届け出たが、「不明」としたままの支出や繰越金を計上するケースが続出、民間企業ではあり得ない会計処理がまかり通っている。これを許せば、政治とカネに絡む不祥事を絶つことなどできるわけはない。同時並行的に政治資金規正法の改正など再発防止策を与野党論議するにしても、実態の把握が「抜け道」をふさぐ大前提となることを忘れてもらっては困る。

 国会は、疑惑をもたれた議員が自ら弁明し、責任を明らかにする場として衆参両院に政治倫理審査会を設置している。多額の「使途不明金」を抱えながら、説明から逃げ回るのであれば国会議員としての適格性が疑われる。少なくとも安倍派の幹部や二階俊博元幹事長らに国会で説明させ、メスを入れ、積年のうみを出すときだ。

 

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政治倫理審査会 開くなら公開を前提に(2024年2月16日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 岸田文雄首相が、政治倫理審査会の開催を調整するよう自民党幹部に指示した。 裏金事件の実態解明に向け、野党側は政倫審を開くよう強く要請している。首相は「国会で判断いただくものだ」とし、答弁では開催を言明していない。

 政倫審への出席を巡り、安倍派幹部や二階俊博元幹事長らの足並みがそろわないという。先頭に立って信頼回復を図ると強調しながら、なお党内の反発に気をもむ首相の保身が透ける。

 議員の政治的・道義的責任を問う政倫審は、ロッキード事件を機に1985年に設けられた。衆院で96年まで一度も開かれなかったのは、疑惑の渦中にある議員本人の申し出か、委員の過半数の賛成を必要とする規定による。参院では実施例がない。

 現在、衆院政倫審の委員は25人で自民が15人を占める。裏金を受領した議員もおり、構成から正す必要があるだろう。

 開くのなら、何より公開を前提にしなくてはならない。原則非公開だが、本人の了解があれば公開できる。自民は事件に関与した議員に出席を促すとともに、公開への同意を指示すべきだ。

 証人喚問と異なり、虚偽の発言をしても罪に問われない。審査会からの勧告にも強制力はない。それだけに、議員が質問に誠実に応じているか、説明を尽くそうとしているか、質疑の過程を国民に知らせることが重要になる。

 展開次第で証人喚問も想定される。拒む理由とさせないためにも開き方に留意してほしい。

 二階氏は3470万円を自身の政治活動を紹介したものを含む書籍購入に充てていた。松野博一官房長官は600万円近くを飲食代に使っている。裏金を事務所に保管していたとする安倍派の議員には脱税の疑いもかかる。

 首相は「事件の関係者に説明責任を明確にするよう働きかけている」と繰り返すものの、その説明のあり方も時期も示さない。実態を小出しにした党内調査や政倫審の調整も、野党に迫られ、しぶしぶ応じているかに映る。

 裏金工作はいつ誰の指示で始まり、派閥や議員は何に使ってきたのか。政治倫理に照らし関係者をどう処分するのか。自民が主体的にけじめをつけようとしない限り問題は収束しない。

 山積みの政策課題を横目に、衆院審議は政治資金や旧統一教会の問題ばかりに割かれている。このまま政治を任せていいか。岸田政権は瀬戸際に立たされている。

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自民と裏金 自浄能力ないのは明らかだ((2024年2月16日『中国新聞』-「社説」)

 こんな政権の下で納税したくない―。きょう始まる所得税の確定申告で、そう憤る国民が大半だろう。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件では、80人超の国会議員に、非課税の政治資金の名目で得た金とその使い道をわざと報告しない違法行為が発覚した。本来なら課税されるべきところを、政治資金収支報告書の訂正で済まそうとしているからだ。

 党がきのう公表した国会議員の聞き取り調査の結果を見ると、説明責任を果たす気がないと言わざるを得ない。

 報告書への不記載は総額約5億7949万円に上った。公表されたのは安倍派、二階派の議員ら91人が、党幹部に語ったとされる内容だ。しかし、全て匿名で、肝心な使い道は「会合費」「懇親費用」などと漠然としか分からない。自己申告の限界である。

 「『政治活動費以外に用いた』『違法な使途に使用した』と述べた者は一人もいなかった」との記述も額面通りには受け取れない。報告書の訂正で「使途不明」としたり領収書がなかったりする支出もある。これで実際の使い道を確認できるわけがない。お手盛り調査との批判は免れず、実態解明には程遠い。

 岸田文雄首相は衆院予算委員会の集中審議で「全体像を把握すべく努力し、党の説明責任を果たす」と答弁した。これが調査に値するのか。

 何より安倍派の組織的な裏金づくりへの突っ込みが浅過ぎる。派閥のパーティー券収入のノルマ超過分を議員側に還流する仕組みを32人が認識し、遅くとも十数年前、場合によっては20年以上前から続いていたとした。だが、なぜ裏金が必要で、誰が始めたのかは不明だ。安倍派幹部はどう関与したのか。それらを解明することが、根本的な再発防止策の前提になることを忘れてもらっては困る。

 にもかかわらず、党調査は収支報告書の2018~22年の5年分しか対象とせず、前身の森派会長を務め、安倍派に強い影響力を持つ森喜朗元首相らに尋ねていない。公表後、首相は「今後も関係者に説明責任を果たすよう求めていく」としたが、もはや自浄能力がないのは明らかだ。

 国会の政治倫理審査会を開催する調整を首相が党幹部に指示した。当然であり、少なくとも安倍派幹部らを出席させるべきだ。

 裏金事件で見えたのは、党と議員が「国民に隠せる金」を持ちたいとの本音である。派閥からの還流額や、党から幹部に配られる「政策活動費」が、選挙のある年に多額になっている点は看過できない。裏金と選挙の関わりは、民主主義の根幹を揺るがす。

 予算委の集中審議でも、使途が明らかになっていないあらゆる金への追及が続く。国会での解明と並行して、独立した第三者による徹底調査が必要だ。

 ここにきて党内で、不記載の議員に対し、使途不明分を課税対象として納税させる案が浮上した。追及を受けたら対応を小出しにする姿勢を続けていては、国民からの信頼回復などあり得ない。

 

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濁れる(2024年2月16日『高知新聞』-「小社会」)


 有名な古川柳に〈役人の子はにぎにぎをよく覚え〉がある。賄賂がはびこった江戸期の老中、田沼意次の時代。近年は商業重視の改革を再評価する向きもあるとはいえ、庶民が浄化を望んだ狂歌も残る。〈田や沼や 濁れる御世(みよ)をあらためて 清く澄ませ白河の水〉。

 白河とは、「寛政の改革」で倹約を進めた松平定信のこと。ただ、景気が上向かず耐乏生活が長くなると、正反対の歌ができた。〈白河の あまり清きに耐えかねて 濁れる元の田沼恋しき〉。庶民がきれいな手法、かつ頼りになる政治・行政の両方を望むのは、いつの世も同じなのだろう。

 ともあれ、田沼時代は幕府役人の人事も金で左右されたという。歴史小説作家の中村彰彦さんは著書「名君と暗君と」に、賄賂の相場は長崎奉行になりたいなら2千両、目付なら千両と書いている。

 先日の本紙で、にわかには信じられない「にぎにぎ」が報じられていて驚いた。名古屋市教育委員会。教員の人事を担当する課が毎年、校長会など教員団体から金品を受け取っていた。総額は年に200万円を超えるという。

 小中学校の校長らに推薦する名簿を出す際などに渡されていた。市教委は激励や陣中見舞いで、賄賂ではないと言う。しかし、ことは先生の信用にも関わろう。調査と説明が急がれる。

 思えば、自民党の裏金事件もまだ満足のいく説明がない。このところ濁れるカネの話がちょっと多すぎる。