マイノリティーの「痛み」認めてくれた吉田寮 京大に問う存在意義(2024年2月12日配信『毎日新聞』)

 現存する国内最古の学生寮とされる、京都大学吉田寮」(京都市左京区)。

 

1913年建設の「現棟」に住む学生らに対し、大学が明け渡しを求めた訴訟の判決が16日、京都地裁で言い渡される。寮生たちが守ろうとしている「営み」とは何なのか。彼らの暮らしを見つめ、吉田寮への思いを聞いた。

 京都大学には、学生自治による寮が四つある。その中から吉田寮に住むことを選んだ理由を、トランスジェンダーの寮生、Aさんは「信頼できたから」と話す。

 吉田寮は、1913年建設で木造2階建ての「現棟」と、地上3階・地下1階建ての鉄筋コンクリート・木造混構造の「新棟」が居住空間となっている。新棟は2015年に建設された際、寮生が設計段階から参加。車椅子での移動を想定したエレベーターの設置やバリアフリーのシャワー室だけでなく、性別による利用制限のない「オールジェンダートイレ」も導入された。

 Aさんは普段、大学構内では多目的トイレを使用する。しかし街中で入ることができるトイレを見つけられない時、自認している性とは違うトイレに「心を凍結させて」入る。

 そんなAさんにとって、時代の流れを読み取って設計をした寮生たちの思いは、存在を認めてくれた証しだった。しかし、そんな寮でも「ユートピアではない」とも話す。

 入寮当初、寮生から服装を揶揄(やゆ)されて「気持ち悪い」と言われた時は、真っすぐ相手の目を見て「それは差別だ」と言い返した。寮生同士の日々の会話でも、何気なく使う言葉で傷つく人がいることを当事者として周囲に伝えてきた。一貫するのは、差別を許さない心だ。

 障害を持つ親族が差別対象となっていたことを、小さな頃から感じて育った。中学生になり、ネット上に流布する障害者差別の言葉を読んだ時、それにあらがいたいという思いが湧いてきた。性的少数者である自身の経験からも、人の差別に直面した時、自分は関係ないからと無視できない。

 根底にあるのは、マイノリティーであることの「痛み」だ。ジェンダーだけでなく、パレスチナ問題などに対する抗議集会にも寮生たちと一緒に参加する。同じ思いの仲間がいる吉田寮を無くすことは、多くの人たちが痛みを抱える社会を作ることになる。「だからこそ、吉田寮の存在意義は大きい」【山崎一輝】