京大の吉田寮 学生の自治 重たくみた判決(2024年2月21日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 学生たちは何代にもわたり、寮の自治に関して大学と合意を積み上げてきた。それによって培われた自治の場の価値を重んじ、一方的に反故(ほご)にした大学に厳しい姿勢を示した判決だ。

 京都大の吉田寮に住む学生らに大学当局が明け渡しを求めた裁判である。京都地裁が、在寮する14人について、「不法占有」だとする大学側の主張を退け、住み続けることを認めた。

 寮の自治会と大学の確約書により、入寮に関する手続きは自治会に委ねられ、在寮契約は成立していると判断した。また、自治会による自主運営に寮生は大きな意味を見いだしていると述べ、代わりの宿舎を用意すれば足りるわけではないと指摘した。

 吉田寮は、大正期の1913年に建てられた現棟(旧棟)と、2015年築の新棟がある。現棟は築110年を超え、現在も使われている学生寮としては国内で最も古い。寮の自治は戦前から脈々と受け継がれ、入寮生の募集や選考も自治会が担ってきた。

 それは独特の文化が息づく土壌にもなっている。寮の運営に関わることは全て寮生の話し合いで決め、全会一致が原則。新入生も大学院生も対等な立場で、全員が納得するまで議論するという。

 自治会は1970年代から大学執行部と確約書を交わしてきた。寮の運営について大学が一方的な決定をしないことも明記されている。ところが、大学側は2017年、自治会との話し合いもないまま、現棟は地震で倒壊する恐れがあるとして、翌年の期限までに退寮するよう通告した。

 撤回を求めた自治会との協議は打ち切られ、退寮を拒んだ学生に対して大学は19年、提訴に踏み切った。確約書については、大学を代表して結んだものではなく無効だと主張していた。

 地裁がそれを退けたのは当然だ。交渉を経て積み重ねてきた約束を、大学側の一存で、なかったことにされてはたまらない。

 耐震化の問題を含めて対話の余地がありながら、大学当局は学生に背を向け、強圧的な態度に出た。他の大学でも、東京大の駒場寮をはじめ学生の自治寮は、反対を押し切って廃止されてきた。

 学問の自由を支える大学の自治は、教員だけでなく、学生もまたその担い手である。学生を押さえつけるようなやり方は、政府による大学の管理強化と相まって、自治をさらに痩せ細らせ、学問の自由の足場を危うくする。そのことを大学当局は認識すべきだ。